アルーラ、引っ越す
婚約解消されて1週間後、私は生まれ育った屋敷を出て荷物と共に馬車に乗っていた。
「……もう少し後ろめたさとか心残りがあるのか、と思ったけど全く無いわね」
それだけ良い思い出が無かった、と言う事だろう、我ながらサバサバしている。
レイナルド王子とミレイユとは結局1回も顔を合わさなかった。
向こうは直接私に会って話、と言うか一方的な宣言をするつもりだったみたいだけど向こうのノリに合わすつもりは無い。
「行き場所は知らせていないし問題は無いでしょ、メイドや執事、使用人も着いてこないし」
お父様からは『誰かついていかせる事も出来るが?』と言われたけど『結構です、ある程度は出来ますので』って言ったら驚いた顔をしていたのは滑稽だった。
私と家族の部屋の距離は圧倒的に遠く同じ家には住んでいるんだけど疎外感を感じていた。
メイドや執事も私の部屋に迎えに来る事は少なくそうなると自然に自分の事は自分でやる様になった。
食事なんてワザと呼ばれなくて仕方無く厨房に入って冷蔵庫から食材を取り出して作っていた。
終いには部屋のリフォームなんて出来る様になった。
それだけミレイユ中心の生活だったのだ。
それから開放される、と考えただけで私の心はスッキリ晴れやかである。
「引っ越し場所は湖畔にあるログハウスね、幼い頃に行った記憶があるわね」
まだレイナルド王子の婚約者になる前、本当に幼い時に家族で遊びに行った事がある。
「魚釣りとかやったわね、懐かしいわ」
管理をしていたおじさんから魚釣りや虫採り、狩猟のやり方を教えてもらった。
「アレが私の人生を決定づけたわね」
私は公爵令嬢よりも平民の暮らしが向いてるんじゃないか、密かにそんな事を思った。
成長して他の令嬢と接して行くうちにその思いはどんどん膨れ上がっていった。
どうも話が合わないし理解できなかった。
公爵令嬢と言う立場なので孤立と言う事は無かったし常に誰かはいたんだけど見えない壁があった。
「だから、コレは正しい選択なのよ」
そう自分に言い聞かせた。