ララコンベ温泉祭り 序
翌朝……
僕は早速試作した漆黒狼と草原狼の肉を利用した弁当を店頭にならべてみました。
漆黒狼の弁当は、厚切りにした肉をステーキ風に焼きあげて、それにステーキソースを絡めています。
ステーキソースは、焼いた肉からあふれ出した肉汁をベースにして仕上げています。
草原狼の弁当は、細切れにして相性の良い野菜と一緒に炒めています。
名称はそれぞれ
「ガウリーナステーキ弁当」
「ガウリーナ野菜炒め弁当」
としました。
試験販売ですので、ガタコンベの本店と、ナカンコンベの5号店東店の2店舗でまずは販売してみたのですが、お昼前には5号店東店店長のシャルンエッセンスが、
「リョーイチお兄様、ガウリーナ弁当がどちらもすごい勢いで売れてしまいまして、もうありませんわ」
と、嬉しい悲鳴をあげながら転移ドアをくぐって駆け込んできたんです。
本店の方でも順調に売れていましたので、僕はすぐにガウリーナ弁当を追加作成していきました。
この調子だと、近いうちに全店舗で販売してもよさそうですね。
◇◇
そんな今日の営業が終了した後、僕は辺境都市ララコンベにありますコンビニおもてなし4号店に出向いていました。
近々ここララコンベで開催されることになっていますララコンベ温泉祭りの打ち合わせのために、この後ララコンベ商店街組合に出向く予定なので、その前にお店の様子を確認に来た次第なんです。
ここコンビニおもてなし4号店では、開店からずっと勤務してくださっていたクマンコさんが年明けから転勤してしまいましたからね。
新たに雇用したマキモ10人姉妹の妹さん達を2人配属させてもらったのですが、その様子を見に来たってのもあるわけです。
「あぁ、店長ちゃん。それなら全然大丈夫っぽい! 2人ともマジぱないよ!」
4号店店長のクローコさんが、満面の笑顔でそう言いながら舌出し横ピースをしてくれていますので、うん、間違いなく大丈夫なようですね。
僕とクローコさんが話をしている後方では、その2人が忙しそうに店内の掃除や品物補充をしていました。
はやくも明日の営業に向けた準備を率先してしてくれているようです。
その横で、ツメバが2人にあれこれ指導しながら品出しをしています。
最初の頃はとにかく頼りなかった感じが半端なかったツメバなんですけど、後輩が出来た事で先輩としての自覚が出来てきたのかもしれません。
パパになったばかりでもありますし、それもあるのかもしれませんね。
とにもかくにも、顔つきがすごく良い感じです。
そんな中、僕はレジ横にあります即売所へ視線を向けました。
そこは、店から少し突き出す形になっていまして、そこに温泉まんじゅうや、焼き温泉まんじゅうを作る設備が整えられているんですが、窓を開けるとその場で道を行き交う人達に直接商品を販売出来るようになっています。
今日は閉店後ですので窓は全部木の雨戸で閉鎖されていまして、蒸し器や焼き器をララデンテさんが綺麗にしているところでした。
「あ、ララデンテさん、この間ガウリーナさんに会ってきましたよ」
僕がそう言うと、ララデンテさんは
「マジかい!? うわぁ、懐かしいなぁ。あいつ元気にしてたかい?」
眼を丸くしながらそう言われました。
このララデンテさん、一見普通な感じで清掃作業を行っておられますけど、すでに肉体を持たない思念体なんです。
僕の世界で言うところの、いわゆる幽霊ってやつです。
ララデンテさんは、辺境都市ララコンベ脇の崖の上にあります門の遺跡を守護しているそうなんです。
つまり、ガウリーナさんとも同僚……ってことでいいのかな?
「そうだね、同じ時期に勇者マックスに門の守護者としてスカウトされた仲間だからさ。ゴルン山のフォルデンテが最初で、それからアタシとガウリーナが選ばれたんだよな。いやぁ、懐かしいなぁ」
僕の話を聞いたララデンテさんは、話をしながら本当に嬉しそうです。
「なんでしたら、今度転移ドアで一緒に会いに行きませんか?」
「いやぁ……そうしたいのは山々なんだけどさ……」
「何かまずいんです?」
「いやさぁ、アタシやガウリーナの魔力じゃさ、門の遺跡からそんなに遠くには移動出来ないんだ。フォルデンテくらい強力な魔力を持ってればあれなんだけどさ、アタシらレベルじゃ下手に遠出しちまったらそのまま神界に昇天しちまいかねないっていうかさ……そうなったら、門の遺跡が崩壊しちまって、色々まずいんだ」
「へぇ……そうなんですねぇ」
正直、ララデンテさんの説明の半分も理解出来ない感じだったんですけど……とにかくララデンテさんやガウリーナさんが門からあまり遠く離れることが出来ないってことだけはしっかりわかりました。
まぁ、この件に関しては、スアに改めて相談してみようかな、と思っている次第です。
◇◇
その後、僕はクローコさんと一緒にララコンベ商店街組合へと出向きました。
ララコンベのお祭ですからね、そのララコンベに店を構えているコンビニおもてなし4号店の店長であるクローコさんに、このお祭の対応を中心になって仕切ってもらおうとおもっていますので、そのために同行してもらっている次第です。
「うん、店長ちゃん、アタシめっちゃ頑張るっぽい!」
僕の隣の席に座っているクローコさんは、気合い満々といった様子で両手でガッツポーズをしています。
以前のクローコさんだと、こういったときにどこか危なっかしい雰囲気があったんですけど、今のクローコさんはといいますと、言動こそ以前とそんなに変わった感じはありませんけど、その安定感は遙かに上なんです。
これも、4号店の店長として頑張ってきた成果ってことなんでしょうね。
そんな僕とクローコさんが商店街組合の建物の2階にある会議室の中で席についていると、続々と関係者の皆さんが集まってきました。
その中には、ララコンベの隣にありますオザリーナ村に店を構えている人達の顔もありました。
どうやら、今回のララコンベ温泉祭りには、オザリーナ村も協力するようですね。
それから30分ほどで、会議室の中は満員状態になりました。
その中には、オザリーナ村の領主を務めていますオザリーナの姿もありました。
相変わらずあれこれ忙しく仕事をこなしているらしいオザリーナは、書類の束を抱えて会議室に飛び込んできました。
会議は、この商店街組合の蟻人達が取り仕切っていきました。
「では、ララコンベ温泉祭りに関する会議を始めるですです」
そう言うと、司会をしている蟻人以外の蟻人達が資料を配付していきました。
それによりますと……
今回のララコンベ温泉祭りは、ブラコンベ辺境都市連合が持ち回りで開催している季節の祭りを参考にしながら、何か新しい演出をしたいとのことでした。
で
「皆様、何かいいアイデアはないですですか?」
司会の蟻人さんは、そう言うと会議室の中を見回していきました。
……しかし
なんといいますか、いきなりそう言われてもすぐに名案が浮かぶはずもなく、結局誰からも意見は出て来ませんでした。
ただ、これは蟻人さんも想定内だったようで、
「では、次回の会議までに考えてきてくださると助かるですです」
そう言って、早々にこの件を打ち切り、次の案件に議題をうつしていきました。
その後の会議では、街道に出店を出すための申請方法や、オザリーナ村からの参加者の受け入れ方法などの説明が行われていきました。
その説明を、クローコさんはふんふんと頷きながら、すっごく真剣に聞いています。
そんなクローコさんを頼もしく思いながら、僕も話をしっかり聞いていた次第です。