地下迷宮の狼さん その後
……と、まぁそんなわけで、ガウリーナの森の中に新しい集落が出来上がった次第です。
「……防護柵の中は防壁魔法のおかげで安全ガウけど、その外にはすぐにまた魔獣達が寄ってくるガウ……森の中の木の実なんかを収穫に行くのはやっぱり危険ガウ……」
防護柵の一角に設けられている門の前で、ガウリーナは困惑した表情を浮かべていました。
その後方には、集落の住人達も続いていまして、ガウリーナの言葉に顔を曇らせています。
僕の横のスアも、
「……そうね、この一帯って、すごい数の魔獣が棲息してる、わ」
索敵魔法を展開しながら、そんなことを口にしています。
「そんなに魔獣がいるんだったら、いっそのこと他の場所に移住したら……」
僕がそう言うと、
「そうガウ……みんなはどこか安全な都市に移り住むのがいいガウ。もっと安全な場所があるはずガウ」
ガウリーナが、集落のみんなに向かってそう言いました。
……ですが
「ガウリーナ様も一緒なら……」
集落のみんなは、一様にそういいました。
その言葉を受けて、ガウリーナは、
「ボクは、ボクが守護していた門の側を長期間離れることが出来ないガウ……みんなとのころにたまには会いに行くガウから」
そう言いながら笑っていたのですが、
「それなら、私達もここに残ります」
「ガウリーナ様がいてくださったからいままで生き延びることが出来たんでですもの」
集落のみんなは、ガウリーナの周囲を取り囲むと、一斉にそう口にしていきました。
「みんな……」
その言葉を聞きながら、ガウリーナさんは若干涙ぐんでいるようです。
すると、ここでイエロが僕の横に歩みよって来ました。
「ご主人殿、洞窟の中で狩った魔獣は、コンビニおもてなしで使えるのでござるよね?」
「うん、洞窟の中で狩った漆黒狼の肉はこないだヒローカ詣の屋台で食べたけど、すごく美味しかったしね。それに一緒に狩った他の魔獣も食用で使えるみたいだし……」
「なら、どうでござろう? 拙者達、コンビニおもてなしの狩猟部門の者達が定期的にこの集落を訪れて、修行を兼ねて魔獣討伐をおこなうというのは?」
「魔獣討伐をかい?」
「そうでござる。で、拙者達が魔獣を狩っている間に、集落の者達も同行して森の木の実などを収穫すれば一石二鳥ではござらぬか?」
確かに……言われてみればこの庵は悪くないかもです。
「スア、まだこの一帯に漆黒狼とかは棲息しているのかい?」
「……うん、かなり多い、よ」
「となると、イエロ達にここに定期的に来てもらって、その魔獣討伐を行うっていうのもありかもしれないね。今なら新人さんもいることだし、その研修も兼ねることが出来るかもだし」
「うむ、新人達のフォローは拙者達がバッチリ行うでござるゆえ」
僕の言葉に、イエロが笑顔で胸を叩きました。
すると、そんなイエロに続いて、
「おっと、アタシも忘れてもらっちゃ困るって」
「アタシもいるキ」
そう言って、ルアとセーテンも腕組みして胸を張っています。
その言葉を聞いたガウリーナや集落のみんなは、
「み、皆さんは洞窟を埋め尽くしていた魔獣達を掃討したガウよね」
「おぉ……なら、安心だ」
そんなことを口になさりながら、一斉にその顔に笑顔を浮かべていきました。
◇◇
……このやり取りを受けまして
僕は、この集落の中にコンビニおもてなしの狩猟部門用の小屋を一軒建てることにしました。
まぁ、建てることにしたといっても、スアの魔法でちょちょいのちょいっと建ててもらったわけなんですけどね。
で、
この地上2階地下1階の建物の2階に、イエロ達が狩猟に来た際に宿泊出来るように小部屋がいくつかあります。
1階と地下は、今のところイエロ達が狩ってきた魔獣を置いておいたり、さばいたりする場所として使用する予定にしています。
そして、地下にはスアの転移ドアを設置してもらいます。
そのドアを、辺境都市ガタコンベにありますコンビニおもてなし本店の転移ドアに接続して、いつでもこの間を行き来出来るようにした次第です。
これで、いつでもこのガウリーナ集落へ行き来出来ることになりました。
これを受けてガウリーナは
「この近隣には、魔獣達におびえながら暮らしている亜人種族の人達がまだたくさんいますので、その人達も呼び寄せようと思うガウ。ここでならみんな安全に暮らせるガウ」
そう言って、その顔に笑顔を浮かべました。
狩猟部門の小屋以外にも、スアが20軒ほどの家を作成してくれましたので、洞窟の出口部分で暮らしていた亜人の皆さんは、早速引っ越しを開始していました。
「とりあえず、これで一段落したわけだし……今日のところは、僕達は帰ることにしようか」
僕は、スアやみんなにそう言うと、小屋の中へ入っていきました。
そんな僕達を、ガウリーナをはじめとした集落のみんなが笑顔で見送ってくれました。
「何から何まで本当にありがとうございますガウ。これからよろしくお願いしますガウ」
ガウリーナと一緒に手を振ってくださったいる皆さんに見送られながら、僕達は小屋の中へ入り、転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
この日狩って帰った魔獣達ですが……
すでに食べたことがある漆黒狼は当然ですが、他に狩猟した草原狼などの魔獣達も調理してみたところなかなか美味しいものばかりでした。
スアがさらに調べてくれたところによりますと、あの森には結構珍しい果物の木々がたくさん群生しているそうです。で、その実って雑食の魔獣達が好んで食べるそうなんです。
「……その実を求めて、魔獣達が集まっているのかも」
スアは、そう言っていました。
なら、イエロ達が魔獣達を狩りまくっても、魔獣達はどんどん集まってくるってことなのかもしれませんね。
その珍しい果物も、ひょっとしたらヤルメキススイーツに使用出来るかもしれませんし、コンビニおもてなしでそのまま販売出来るかもしれません。
「……そう考えると、ガウリーナ集落の建物をおもてなし商会として使用して、そこでその果物を買い取りしてもいいかもしれないな」
僕は、そんな事を考えていた次第です。
この件に関しては、おもてなし商会ナカンコンベ店のファラさんと近いうちに相談してみようと思います。
ちなみに……夕飯に早速漆黒狼と草原狼の肉を使ったステーキと、野菜炒めを出してみたところ。
「パパ! これ美味しいれふ!すごく美味しいれふ」
口一杯にそれを頬張ったパラナミオが、満面の笑顔を浮かべていたのを筆頭に、リョータやアルト、ムツキやアルカちゃんも笑顔でそれを食べていました。
特に草原狼の肉は野菜との相性がすごくいい見たいでして、野菜炒めにするとその味がすごく際だったんですよ。
そんなみんなの様子を見た僕は、みんなとお風呂に入った後、
「明日の朝から、漆黒狼や草原狼の肉を使った弁当を作成してみようかな……名前は、そうだな……ガウリーナ弁当とでもしてみようか……」
そんな事を考えながら、厨房で早速試作品を作っていました。
すると、厨房の中にスアが降りてきました。
「……何か、お手伝いしよう、か?」
スアは、そう言いました。
「いや、スアは今日、いっぱい魔法を使ってくれたんだし、休んでていいよ」
僕は笑顔でそう言いました。
すると、スアは、
「……旦那様は、いつも優しい、ね」
そう言って、嬉しそうに微笑みました。
僕は、その後もしばらく弁当の試作を続けていきました。
スアは、そんな僕を笑顔で見つめていました。
その後……満足いく試作品が出来た僕は、スアと一緒に3階のスアの研究室に移動していきまして……おっと、ここからは黙秘させていただきますよ。
まぁ、今日もスアは可愛かったですとだけ……