オネの1日のヒローカ詣 その1
年末をチウヤゲレンデで過ごした我が家です。
クマタンゴさんのゲレンデが再開したのと、定期魔道船が通い始めたのが重なったおかげでしょう。
この日も多くのお客さんがチウヤゲレンデに集まっておられました。
特に、ソリが大人気になっていて、コンビニおもてなしの在庫を提供させてもらっている貸しソリには連日長蛇の列が出来ているそうでして、この日もすごい数のお客さんが貸しソリの受付に並んでいた次第なんですよ。
で
それを受けまして、このソリの増産も行っています。
ルア工房のルアにソリを見せて、
「これをとりあえず100個くらい作ってもらいたいんだけど」
と、相談してみたところ、
「あぁ、今、こういった製造関係の仕事はパラランサに任せてるから」
そう言って、ルアの片腕のパラランサくんを紹介された次第です。
ヤルメキスの旦那さんのパラランサくんですが、腕は確かですからね。
ルアが産休育休だった時期にも、その代役をしっかりこなしていましたので。
ちなみに、今のルアは主に建物の建築ならびに増改築事業を担当しているそうなんです。
この一帯では一番の大都市である辺境都市ナカンコンベに支店がありまして、そこに増改築の相談がたくさんよせられているそうなんですよ。
あと、オザリーナ村の建物に関しても、そのほとんどをルア工房が手がけている関係で、新規建物の建築もすべてルア工房は請け負っているそうなんです。
「どっちもさ、店長がウチの工房を利用してくれたおかげで繁盛してるんだ。ホントありがとな」
ことあるごとにお礼を言ってくれるルアなんですけど、僕としましては、この世界にいきなり飛ばされてきてですね、右も左もわからなかった時に最初に声をかけてあれこれ面倒を見てくれたルアがいたからこそ、こうしてコンビニおもてなしの経営を軌道にのせることが出来たと思っていますので、
「むしろ、お礼を言いたいのは僕の方だよ」
そう、言葉を返すのがいつもなんですよね。
で、
パラランサくんにソリを見せたところ
「……そうですね、木製でよければすぐにでも対応可能です。雪の上を滑るとのことですので木の樹脂を塗って滑りやすく、かつ水分が木に浸透しないようにしましょう」
そう言ってすぐに快諾してくれて、
「こんなもんでどうですかね?」
試作品を持ってきてくれたのが10分後。
「うん、こんな感じでお願いするよ」
「わかりました、では、これで進めますね」
そう言ってルア工房に戻ったパラランサくん。
が
「では100個お持ちしました」
そう言って完成品を持ってきてくれたのが2時間後……という、なんともすごい仕事の速さといいますか……
「いえいえ、コンビニおもてなしさんのお仕事は常に最優先でこなすように、ルア師匠からも言われてますし……それに、ヤルメキスちゃんもお世話になっていますし……」
そう言って、少し恥ずかしそうに笑うパラランサくん。
はじめて出会った頃のパラランサくんって、どこか堅苦しいというか生真面目な印象だったんですけど、最近はすごく表情が豊かになったといいますか……これもやっぱあれですかね。ヤルメキスと結婚して、12つ子のパパになったからなんでしょうね。
そんなパラランサくんのおかげで、昨年のうちにソリの増産が出来たもんですから、貸出以外にも、宿に併設していますコンビニおもてなしチウヤゲレンデ出張所で販売も行っているのですが、これがもう大人気になっているそうでして、貸しソリを利用してその楽しさを知ったお客さん達が
「ソリをくれ!」
「私も買うわ!」
「パパ! ソリ買おうよ!」
そんな感じで殺到しまくっているそうなんです。
これには、クマタンゴさんも
「いやはや、まさかこのソリがこんなに人気になるなんて思わなかったクマ」
そんな嬉しい悲鳴をあげている次第なんですよ。
僕達も、昨日はクマタンゴさんの孫娘のクリッタちゃんを交えてソリでいっぱい遊んだ次第です、はい。
◇◇
その日のうちに、辺境都市ガタコンベの自宅に戻った僕達。
この世界で言うところのオネの月の1日は、新年最初の日ってことで祝日なんです。
なので、チウヤゲレンデで一泊してもよかったのですが、1日も営業している支店がありますし、定期魔道船も運行していますからね。
万が一に備えて戻っておいた次第なんです。
……とはいえ
せっかくのお正月ですので、ずっと家に籠もりっきりというのもあれなので……初詣にでも、と思った次第なんですよ。
いえね
こちらの世界には正確に言うと初詣っていう習慣はないそうなんです。
ただ
辺境都市ナカンコンベにはですね、
『ナカンコンベを商業都市へと発展させた初代領主ヒローカのお墓に、オネの月の1日に詣でると1年間商売繁盛に恵まれる』
って言われているそうなんです。
で、それを聞いたもんですから
「今年はナカンコンベのヒローカ詣でに行ってみようか?」
ってスアやパラナミオら子供達にも相談してみたところ、
「……うん、いいんじゃない?」
真っ先にスアが賛成してくれて、
「パパ、ぜひ行きたいです!」
って言いながら右手を挙げてくれたパラナミオを筆頭に子供達みんなも賛成してくれた次第なんですよ。
◇◇
そんなわけで
今の僕は、辺境都市ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店東店の中へ移動していました。
シャルンエッセンスが店長を務めているこのお店ですが、今日は祝日なのでお休みです。
ただ
この建物に併設されていますおもてなし診療所の方は、なんだか大賑わいな感じでした。
ここは、スアに完全服従を誓っている暗黒大魔導士のダマリナッセ・ザ・テリブルアが担当してくれているんですけど……
「いやはや、年末だからってんで酒の飲み過ぎだの、食い過ぎで腹が痛いだのって、まぁ、軽微な急患がひっきりなしにやって来まくっててねぇ……まぁ商売繁盛でありがたいといえばありがたいんだけど……」
テリブルアはそう言って苦笑していました。
……なんと言いますか、世界は違えどみんなやることは一緒なんだなぁ、と、つくづく思った次第です、はい。
スアが手伝いを申し出たんですけど、
「あぁ、数が多いだけで全然大したことないんで。スア様の手を患わせることはないですって」
テリブルアがそう言ったもんですから、今日のところは対応を任せることにした次第です。
一応、手伝い係としてチュ木人形を2人派遣しておいた次第です。
そして
コンビニおもてなし5号店東店を後にした僕達は、ナカンコンベの中央地にある役場に向かって歩いていきました。
街道を歩いていると、僕達と同じようにヒローカ詣に向かっていると思われる商売人の方々が多い気がします。
ひょっとしたら定期魔道船を利用してやってくる人も多いかもしれませんね。
そんな事を考えながら、僕達は街道を歩いていました。
僕の右手にはパラナミオ
僕の左手にはアルト
僕の後方では、スアがムツキと手をつないでいて、リョータがアルカちゃんと手をつないでいます。
すると、
「あ、店長ちゃん!」
後方から聞こえてきたのは……ララコンベにあります4号店店長のクローコさんの声でした。
振り返ると、そこにクローコさんが笑顔で両手を振りながら駆け寄ってくる姿が見えました。
……なんといいますか……
いつものヤマンバメイクが4割増しで濃くなっていて、服にもなんだかラメが入っているのかキラキラしまくっています……当然のようにワンレンボディコンです……この世界でも、こんな化粧や服があるんだなぁ、と、むしろそっちに感心していた僕なんですが……
なんでも、昔、ナカンコンベで商売をしていたことがあるクローコさんも、ヒローカ詣をよくしていたそうなんです。
で、今は支店長を任されていることもあって、久々にヒローカ詣に来たそうなんですよ。
温泉郷にある4号店は今日も営業していますので
「朝一番だけ抜けさせてもらった、みたいな」
そう言って舌出し横ピースをするクローコさん。
最初の頃は、このポーズに苦笑しか出来なかった僕なんですけど……最近はなんだか慣れてきたといいますか……ははは。
「店長ちゃんもヒローカ詣?」
「うん、ちょっと行ってみようかと思ってさ」
「じゃあ、同伴しちゃう? みたいな?」
……え~、言葉のチョイスには問題がありますけど、まぁ、同じところへ向かうわけですし、
「じゃあ、一緒に行こうか」
そう返答した僕。
そんなわけで、僕達は1人で5人分くらい賑やかなクローコさんを加えてヒローカ詣へ向かっていきました。