109章 子供と握手
部屋の奥から、ミライが顔を出す。自信をつけているからか、前回に顔を合わせたときよりも、一回り、二回りも大きく見えた。
「ミライさん、こんにちは・・・・・・」
「アカネさん、いらしていたんですね」
「うん。ココアさんと一緒にやってきたんだ」
ミライは頭を軽く下げたのち、ココアに自己紹介をする。
「ココアさん、はじめまして。ミライといいます」
ココアも軽く頭を下げる。
「ミライさん、はじめまして」
ラーメン店の店主が、店の奥に入っていく。それと入れ替わるように、フタバがやってきた。
「アイコ、そろそろ寝よう」
「あと10分だけ・・・・・・」
「10分後には、布団に入るようにしてね」
「は~い」
フタバは返事をしたあと、家の奥に入っていくこととなった。その様子を見届けると、フタバはこちらに声をかけてきた。
「子供に付き合っていただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ」
「口癖のように、アカネさんに会いたいといっていました。夢がかなったことで、テンションが上がっているのかもしれません」
「元気でとってもいいですね」
「そういっていただけると、こちらとしても救われます」
フタバがこちらに顔を見せる。手にはノート、黒のボールペンを持っていた。
「アカネさん、サインをください」
握手をするだけでなく、サインもすることになるとは。アイドルでないにもかかわらず、握手会と全く同じ光景になってしまった。
大人なら断るところだけど、子供の夢を壊すわけにはいかない。フタバのノートに、サインをすることにした。
「わかった」
「最後のページにサインしてください」
初めてのサインだったからか、うまく書けていなかった。練習を重ねて、うまく書けるようになりたい。
アイコはサインをもらえたことが嬉しかったのか、無邪気にはしゃいでいた。その様子を見ていると、こちらまで元気になれるような気がした。
「アカネさんからサインをもらったよ」
「よかったね」
「私の一生の宝物にする」
アイコはノートを大切そうに抱えている。本当に大切そうにしているところを見ると、サインしてよかったと思った。
「私は睡眠をとるね。おかあさん、おやすみなさい」
「アイコ、おやすみ」
アイコは部屋に入る前に、アカネに頭を下げる。
「アカネさん、本当にありがとうございました。私にとって、貴重な時間を過ごすことができました」
「アイコちゃん、時間があったらまた来るね」
「また会いたいです。絶対に来てくださいね」
アイコは部屋の中に戻っていく。フタバはその様子を、優しい視線で見つめていた。
「アカネさん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、役に立ててよかったよ」
「あの子のためにも、たまには来てくださいね」
「はい。やってきたときはお願いします」
交友リストを追加できたことに対して、素直に喜びを感じていた。スローラーフを送るとはいっても、人との交流も入れるのもありかな。
やり取りを見守っていた、ミライが久しぶりに口を開いた。
「ペットショップにも来てくださいね」
『うん、「なごみや」にもいくようにする」
「そのときには、私も一緒したいです」
「うん。一緒にペットと過ごそうね」
ミライは胸の前で指を絡めていた。
「アカネさんと過ごせるのは、とっても楽しみです」
一週間以内に、「なごみや」に足を運べるといいな。アカネはそのように思った。