106章 セカンドライフの街の結婚、出産事情
ラーメン店を見回すと、ラーメンの絵が飾られていた。絵であるにもかかわらず、麺が生きているように感じられた。どのようにしたら、このレベルの絵が描けるのだろうか。
「絵は誰が描いたの?」
アカネの質問に対して、フタバが回答する。
「ミライが描きました」
わずかな期間で、絵のスキルが格段に上昇している。このまま進化していけば、とんでもない逸材になりそうだ。
店の奥から、5歳くらいの少女が姿を見せる。
「おとうさん、一緒に寝ようよ」
父親の服の裾を引っ張っている少女を、フタバがなだめていた。
「サラ、お仕事をしているのだから、無理をいっちゃだめだよ」
「今日はもう終わったんじゃないの?」
「アカネさんがやってきているの。そのことを理解して」
5歳の女の子は、アカネの顔を覗き込んできた。恥ずかしさのあまり、顔をそらしてしまうこととなった。
「この人は誰なの?」
アカネの名前を知らない人もいるのか。有名人として扱われていたからか、嬉しいという気持ちが芽生えていた。
「サラ、失礼なことをいわないで」
フタバは頭を何度も下げる。
「子供が失礼なことをいってしまい、大変申し訳ありません」
気を取り乱している女性に対して、アカネは優しく声をかける。
「私は気にしていないよ」
サラはラーメン店の店主に声をかけていた。
「おとうさん、一緒に寝ようよ」
サラのことを考えると、夜にやってこないほうがよかった。アカネが訪ねたことで、子供の幸せを奪うこととなった。
「30分くらいしたらそっちに行くよ」
「今すぐがいい」
「20分後にはそちらに行くよ」
時間を短縮しても、子供は納得することはなかった。
「今すぐじゃないと嫌だよ」
サラの姿を見ていると、子供の頃の自分と重なるような気がした。
「サラ、わがままをいったらだめだよ」
母親のなだめ方もそっくりだ。どこの家庭においても、同じような教育がなされているのかも
しれない。
フタバは納得しない子供の手を取ると、強引に中に入ってしまった。実力行使で乗り越えようとするのも、親にありがちな行動である。
子供がいなくなると、店長は小さな声でいった。
「ラーメン店を立ち上げてからというもの、子供と向き合う時間が極端に減ってしまったんだ。
そのことで、すねてしまっているみたいなんだ」
子供の相手をすれば仕事ができなくなるし、仕事をすれば子供を養えなくなる。絶妙なバランスを取ることを求められる。
じっくりを話しを聞いていた、ココアが口を開いた。
「親の気持ち、子供の気持ちはうまく重ならないですね」
店主は納得したようにうなずいていた。
「そうだな。子育ては何一つうまくいかない」
「私も同じです。あまりにうまくいかないので、大量のストレスを抱えることもあります」
「親のいうことを聞いてくれたら楽なのに・・・・・・」
「そうですね・・・・・・」
ココアは苦笑いを浮かべていた。
「ココアさんは何人の子供がいるんだ」
「3人です。2人は男、1人は女です。年齢は7歳、6歳、5歳です」
ココアの年齢からして、1~2歳くらいだと思っていた。それゆえ、驚きを隠すことはできなか
った。
「ココアさんは20歳くらいだよね」
「はい。私は19歳です」
「19歳なのに、7歳の子供がいるの」
「はい。そのとおりです」
「子供を産むのが早すぎないかな?」
『「セカンドライフの街」では、12歳前後から、子供を産む人もそれなりにいます。私も11歳のときに、長男を誕生させました』
「セカンドライフの街」の出産年齢は、発展途上国さながらである。日本の常識が染みついているからか、これでいいのかなと思ってしまった。
「私の友達は、9歳で子供を誕生させていました。子育てのことを考えると、出産が早いほどメリットが大きくなります」
世界の最年少出産記録は、5歳と7カ月といわれている。それには及ばないものの、9歳というのはかなり早くなっている。
「子供を誕生させるにあたって、不文律が一つだけあります。それは、8歳未満で妊娠しないことです。7歳以下で妊娠すると、出産後の1週間以内に40パーセントの命が失われます」
生まれてきた命が失われたら、労力はすべて無駄になる。そうならないよう、出産年齢に気を配っているようだ。
「結婚の下限はないの?」
「それはありません。極端な話をすると、生まれた直後から結婚できます」
生まれたばかりの赤ちゃんが籍を入れる。アカネには想像もつかない世界観だった。
『「セカンドライフの街」の最年少結婚は、4歳といわれています」
幼稚園に入ったばかりの男女が結婚する。こんなことをしてもいいのだろうか。
「結婚に当たっては、本人同士の同意が重要です。親が結婚を強要したと判断された場合、強制労働をさせられることになります」
子供の人権を尊重するために、両親からの結婚共用を禁止されている。この部分については、現実世界にもあればいいのにと思った。親の意向だけで、結婚を強いられる男女は一定数はいる。好意を持っていない異性と結婚した未来に、幸せの2文字を感じるのは厳しくなる。