105章 ラーメンを食べる
30くらいと思われる男が姿を見せる。白い服を着ていることから、ラーメン店の店主であると思われる。
「アカネさん、いらっしゃい」
アカネは頭を下げる。
「夜遅くにすみません」
「アカネさんの頼みを断るわけにはいかないからな」
「明日でよかったのに・・・・・・」
ラーメンは明日であっても食べることができる。それゆえ、今日に食べる必要性はどこにもない。
「アカネさんに、うちのラーメンを食べてほしかったんだ」
フタバが水入りのコップ、おしぼりを持ってきた。
「いらっしゃいませ。お気に入りの注文が決まりましたら、声をおかけください」
メニューは醤油ラーメン、特性醤油ラーメンの2つだけだった。醤油ラーメンに魂を注いでい
るのが伝わってくる。
「特性醤油ラーメンを一つください」
ココアも続いた。
「私も特性醤油ラーメンをお願いします」
ラーメン店の店主は小さく頷いた。
「トッピングはどうする?」
トッピングの具材は、チャーシュー、半熟卵、メンマ、ネギの大盛りとなっていた。トカゲの肉がないことに対して、安心感を覚えることとなった。
「ココアさん、どのトッピングを食べたい?」
ココアは小さく頷いた。
「ネギ以外のトッピングを頼みたいと思います」
アカネは頷いたあと、店長にトッピングの注文をする。
「チャーシュー、半熟卵、メンマを2人前ずつ」
「あいよ・・・・・・」
先ほどまでの融和ムードはなくなり、仕事をする顔になっていた。ラーメンに命を懸けているのが伝わってくる。
店主がラーメンを作っている間、二人に会話はなかった。ラーメンに真剣になっている、男の姿を目に焼き付けていた。
ラーメンがゆで上がったあと、お湯を素早く切っていた。あまりに早かったからか、目で追うことはできなかった。
「ラーメン、お待ち」
目の前に現れたラーメンは、現実世界とそっくりだった。アカネは大いに感動することとなった。
「とってもおいしそうです」
ココアはスープを口に運んだ。
「すごくおいしいです」
アカネもラーメンのスープを口に運ぶ。すぐに濃厚な醤油の香りが広がることとなった。
「おいしい」
工夫次第では安い食材であっても、味を引き立たせることができる。ラーメンはそのことを教えてくれるような気がした。
スープを褒められたことが嬉しかったのか、店長の声のトーンが10パーセントほど上がることとなった。
「うちのスープは10時間以上かけて、食材のうま味を凝縮しているんだ」
ラーメンのスープを作るために、10時間もかけているとは。店長のラーメン愛、ラーメンに対する情熱が伝わってくる。
「スープを作るときは、鍋から一秒たりとも離れることはない。席を外してしまったら、スープに不純物が混じりこむことになるからな。不純物が混じったスープは味の劣化を招いてしまう」
血の滲むような努力をすることで、最高の一杯を完成させているのか。ラーメンにかける思い
が伝わってくる。
「アカネさんの能力があれば、100倍くらいはおいしくできると思う。睡眠を取らなくてもいいスキルがほしい」
スキルを所持しているものの、ここまでおいしいラーメンを作るのは無理だ。10時間も鍋とにらめっこをしていたら、気がおかしくなる。
睡眠をとらなくてもいいスキルに対して、ココアは反応することとなった。
「アカネさんは睡眠を必要としないんですか?」
「うん。過去には720時間くらい、眠らなかったこともあるんだ」
「720時間ですか?」
「うん、そうだよ」
ココアは指を使って、数字の計算をする。
「1ヵ月も起き続けていたんですか?」
「うん。そういうことになるね」
「身体に異常はなかったんですか?」
「特に何もなかったよ」
疲れないスキルがあるため、身体の疲労は特に感じなかった。
「すごすぎます。人間のなせる業ではありません」
キョトンとしている女性に対して、自分の持っているスキルを打ち明ける。
「不老不死、攻撃無効、異常無効、空気がなくても生きられるスキルなども所持しているんだ」
ココアは意味が理解できないのか、思考回路がストップしていた。
「回復魔法以外のスキルもあるんですね」
「うん。いろいろなスキルを持っているよ」
「それだけの能力があったら、いろいろなことができそうですね」
「うん。いろいろなことができるよ」
「私もスキルが欲しいです」
「それは無理かな。スキルをゲットできるのは、レベル90からなんだ」
「セカンドライフの街」で、スキルを得られるのはレベル90からとなっている。一桁のレベルの人間では、どうすることもできない。
アカネはラーメンをすすった。小麦の甘い香りが、口の中に広がることとなった。
「小麦の味が引き立っている」
ココアもラーメンをすすった。
「とってもおいしいです」
二人はラーメンの虜となったのか、一気に食べ進めていった。三分としないうちに、器の中にある麺はなくなってしまった。