パルマ生誕祭狂想曲 その2
しばらくして……
コンビニおもてなしの店内には、リテールさんの姿がありました。
「ぶぇっくしょい」
さっきスアに、魔法で川に叩き込まれたせいで、豪快なくしゃみをしておられます。
すでに、ご自分の魔法で体が乾かし終わっているはずなのですが、両手で自分の体を抱きしめながらガタガタ震えておいでです。
「……あの、お義母さん、大丈夫ですか?」
スアの実のお母さんですので、僕にとってはお義母さんですからね。
毛布を片手にそう声をかけたのですが、
「婿様優し~でも、どうせなら名前で呼んでほしいですわ~、私と婿様の中じゃないですか~」
リテールさんってば、無駄に色気を振りまきながら、僕につつつとにじり寄って来ました。
スアの母親だけありまして……リテールさんも、小柄で童顔です。
後ろ姿だけ見たら、小学校低学年の女の子に見間違っても不思議ではないかもしれません。
そんなリテールさんの前に、スアが水晶樹の杖を延ばしました。
「……ねぇ、死にたい?」
スア、目が据わってます。
完全にマジです。
「や、やだなぁ、ステルちゃんたらぁ、これはジョークよぉ、イッツ・ア・おかあさんジョ~ク~」
リテールさんは、必死に顔を左右にふりながら、僕から離れていきました。
今度は、無駄に色気を振りまく余裕もないようです。
◇◇
と、まぁ、そんな感じのやりとりが一段落したところで、
「……で、リテールさん。あの雪の塊はなんだったんですか?」
みんなを代表して、僕がそう切り出しました。
僕の周囲には、スアとゴルアの姿もあります。
そんな一同を前にして、リテールさんは、
「いえね~、話せば長くなるんだけど~」
そう切り出したのですが、
「……短く」
そこに、スアが一言口を挟むと。
「はい~、子供達を喜ばせようと思ったの~」
ビシッと気をつけをしてそう言いました。
で
これだけではよくわからなかったので、改めてお話をお聞きしたのですが、
先日、我が家の面々と一緒に雪山に遊びにいったリテールさん。
そこで、パラナミオ達が楽しそうに遊んでいる姿を見てですね、
『お家に帰っても、雪があったら喜ぶかも~』
と、思いたったらしく、チウヤゲレンデよりも北方の豪雪地帯まで転移していって、大量の雪を確保して、それを我が家に届けようとしてくれてたそうで……
「……いや、あの……お気持ちはうれしいのですが……」
僕は、そう言いながら店の外へ視線を向けました。
その先
辺境都市ガタコンベの城壁のすぐ向こうには、でっかい雪山が出来上がっています。
なんでもあれ、最初は巨大な雪のゴーレムだったそうなんです。
それが、南に向かって移動している間に徐々に溶け始めてですね、足の部分なんかは完全に溶けてしまって、最後はずりずり腕で移動していたそうでして……
なんでしょう……僕の脳裏には、某アニメ映画で、不完全なまま起動したせいでどろどろになっていった巨○兵の姿が浮かんでいたのですが……
「とにかく、量を考えてください。あのまま雪のゴーレムが街中になだれ込んでいたら、街が破壊されてたかもしれませんからね」
「ごめんなさ~い……」
僕の言葉を前にして、リテールさんはまるで子供のようにうなだれてしまいました。
なんといいますか……仕草はホントに子供なんですよね、リテールさんってば。
見た目がこれでも長命なエルフのリテールさん。
その上、スアの実のお母さんなんですから、最低でも二ひゃ……
「婿様! それ以上はなりません~」
「……旦那様、年齢は禁則事項、よ」
そんなことを考えたいた僕の真正面に、リテールさんとスアが慌てた様子で駆け寄ってきた次第でして……
「あ、はい、すいません」
その2人の圧迫感に押された僕は、そう返答するのがやっとだったわけでして……
◇◇
で
まぁ、とにもかくにも雪騒動は無事解決したわけです。
雪山も、そのうちとけてなくなるでしょう。
で、まぁ、せっかくなので、雪山を少し持って帰ってですね、コンビニおもてなしの入り口横に盛っておきました。
すると、
「わぁ、雪だ!」
「はじめて見たわ!」
予約品を取りに来たお父さんやお母さんに連れられて、一緒にお店にやってきた子供達が、顔を輝かせながら、その雪を手にしていきました。
中には、雪玉をつくって即席の雪合戦をはじめる子供達までいたりします。
そうなんですよね。
ここ、ガタコンベは、この世界でもやや南の方に位置しているそうで、冬でも滅多に雪がふらないそうなんです。
僕が元いた世界でいうなら、沖縄って感じですかね。
まぁ、それでも、夏は沖縄ほど暑くはならないので、非常に快適にすごせているんですけど。
そんなガタコンベに暮らしている子供達なので、雪をみるなりこういう反応になるのも当然なわけです。
よく見てみると、城壁の外に出来た雪山にも、ガタコンベの人々が登っているのが見えました。
中には、トロッコみたいな乗り物のって、雪山をすべりおりている子供達の姿も散見しています。
そんな感じで、ガタコンベの街は雪山遊びで大盛り上がりになっていきました。
「まぁ、結果オーライってことで、いいんじゃないかな?」
その光景を見つめながら、僕はそう言いました。
そんな僕の横で、スアも
「……旦那様がそう言うのなら」
そう言いながら頷いています。
そんな僕達を前にして、リテールさんは
「あら~、なんだか皆さんにも喜んでもらえたみたいでよかったわ~」
笑顔でそう言っておられました。
なんのかんの言っても、リテールさんってば、子供が大好きなんですよね。
今も、
「さぁ、パラナミオちゃんやリョータくん達も、このリテールおばあちゃまと一緒に雪山へ遊びにいきましょ~!」
そう言ってくれていますしね。
……まぁ、それが行き過ぎて
『婿様、ステルちゃんの弟か妹を作るお手伝いをお願いしたいのです~』
って、僕に言ってくるのは、ちょっとどうだろうと思うんですけど。
僕が、そんなことを思っていると、スアも
「……ホント、そう」
って言いながら、うんうんと頷いていました。
◇◇
その後、リテールさんとスアが保護者になって、パラナミオ達を雪山に連れていってくれました。
そこでパラナミオ達は雪遊びをして大いに楽しんでいました。
いつのまにか、地下倉庫を冷蔵してくれているシオンガンタやユキメノームまで一緒になって遊んでいた次第です。
僕も行きたかったんですけど……パルマ生誕祭の予約品を取りに来られる方の数が、夕方が近くになるにつれてどんどん増えて来たもんですから、その応対をするために、お店を離れることが出来なくなっていたんです。
でもまぁ、これも商売繁盛なわけですし、喜ばないといけないんですけどね。
そんなコンビニおもてなしの入り口横には、今も雪がこんもりと盛り上げられています。
それを、子供達が楽しそうにさわっています。
これも、ひとつのホワイトクリスマスならぬ、ホワイトパルマ生誕祭ってことで、いいのかな?
そんな事を考えながら、僕は予約品をお客さんに手渡していました。