パルマ生誕祭狂想曲 その1
チウヤゲレンデでの休暇を終えた僕ですが、休みがあけるとコンビニおもてなしの仕事が大忙しになっています。
いえね、僕の世界でいう12月の25日のクリスマスの日が、こちらの世界ではパルマ生誕祭という建国記念日みたいな日でして祝日なんですよね。
その日に合わせて、パルマ生誕祭ケーキや、家族みんなで食べるためのオードブルセットの予約を受け付けたのですが……これが大人気でして、すごい数の予約が集まった次第なんです。
確かに数はすごかったのですが……去年のパルマ生誕祭を経験していましたので、今年はそんなに慌てることはありませんでした。
ケーキ作りをメインでするはずだったヤルメキスがですね、12つ子を出産した関係で育休の真っ最中だったものの、その穴を埋めるためにオトの街で食堂を経営しているラテスさんとヨーコさんの2人に助っ人をお願いしてパルマ生誕祭ケーキの作成を手伝ってもらったおかげで、予約分を事前にすべて準備することが出来ていました。
オードブルに関しましても、ブラコンベにありますコンビニおもてなし食堂エンテン亭と、ナカンコンベにありますピアーグ食堂のみんなが手伝ってくれたおかげで、こちらも予約分を事前に準備出来ていました。
そして、昨日から予約分のお渡しが、コンビニおもてなし本支店ならびに出張所で開始になっています。
どの店も、かなりの数を渡さないといけないため、スア製のチュ木人形を各店に1体づつ配置しまして、予約分お渡し係として勤務してもらっています。
話すことが出来ず、単純作業しか出来ないチュ木人形ですが、引換券を受け取り、その内容の品物を渡すくらいの作業は問題なく行えます。
このお渡し係は、全店で問題なく行えていました。
時折、
「あの……出来たらケーキをもう1個……」
「オードブル予約してなかったんだけど、駄目かな?」
といった、イレギュラーな要望をしてこられるお客様も少なくなかったのですが、その際には、各店の店員達が即座にフォローしてくれていて、事なきを得ていた次第です、はい。
◇◇
僕が勤務している本店も、パルマ生誕祭ケーキを求めてこられたお客さんが、予約受け渡しコーナーに殺到しています。
そこでは、サンタ帽子を被っているチュ木人形が、予約品を取りに着てくださったお客さんに品物を渡してはぺこりと頭をさげています。
そんなチュ木人形に、ケーキを受け取った女の子が
「ありがと~」
と、笑顔で手を振ると、チュ木人形も手を振り替えしています。
スアのおかげで、それぐらいの臨機応変さを兼ね備えることに成功したチュ木人形。
木人形に比べて廉価版のため、あまり多くの機能を持たせることが出来ないんですけど、そんな中で、これだけの機能を詰め込めるスアってば、やっぱりすごいよな、と思う僕です、はい。
そんな中……
「ててて店長殿、大変だ!」
そう言ってコンビニおもてなし本店に駆け込んできたのは、ゴルアでした。
辺境都市ガタコンベの近くにあります、辺境駐屯地の隊長です。
「ゴルア、いったいどうしたんだい?」
僕が聞くと、ゴルアは、
「と、とにかく外へ、外へ出てください」
ゴルアはそう言って僕の手をひっぱりました。
で、その足でコンビニおもてなし本店の外に出て、周囲を見回していったのですが……
「え?」
思わず、その目が点になってしまいました。
いえね……僕が見つめているのはガタコンベの北の方なんですけど……なんかそっちの方から雪の塊が迫ってきているんですよ。
それは、文字通り雪の塊でした。
まるで小山くらいあるんじゃないかってくらいの大きさの、その雪の塊が、ゆっくりとガタコンベに向かってきているように見えるんです……
「ちょ!? 何あれ!?」
「そそそそれをお聞きしたいのは私ですってば」
僕とゴルアは顔を見合わせながらワタワタしていました。
っていうか
あんなでっかい雪の塊が、あのまま街中になだれ込んで来たら、ガタコンベの大半が雪で埋もれてしまいかねません。
……しかし
ここで、少し冷製になった僕は、あることに気がつきました。
ここ、ガタコンベはですね、冬になってもそんなに寒くなりません。
そのため、雪なんてほとんど降らないんですよ。
「……じゃあ、あの大量の雪は……いったいどこからやってきたんだ?」
僕は、巨大な雪の塊を見上げながら首をひねり続けていました。
すると
そんな僕の前の前に、スアが転移魔法で出現しました。
「あ、スア。ちょうどよかった、あの巨大な雪の塊なんだけど……」
僕がそう言うと……そんな僕の前でスアは、
「……まったく……だから嫌いなの、よ……」
忌々しそうにそう言うと、手に水晶樹の杖を持ち、それを巨大な湯子の塊に向けていきました。
すると
どっこ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!
巨大な炸裂音とともに、雪の塊が真っ二つに割れていったのです。
スアの魔法でそうなったのは間違いありません。
「……ん?」
その時、僕はあることに気がつきました。
よく見ると、真っ二つになった雪の塊の、その間に、何か人影のようなものが見えたような気が……
しかもその時、その人影が言葉を発したような気がしたのですが……よく耳をすませて見ると
『ステルちゃ~~~~~~~~ん、ひどいわ~~~~~~~~~~~』
って、言っているような気が……
ステルちゃんと言えば、スアが僕と結婚する前に名乗っていた名前です。
今は、スア・タクラを名乗っているスアですが、それ以前はステル・アムという名前を名乗っていましたから。
で、ですね……
そんなスアのことはいまだに「ステルちゃん」と呼ぶ人物は多くありません。
……いえ、正確には1人しかいません。
えぇ……スアのお母さん、リテールさんしか……
「……そういえば、リテールさんって……確かチウヤゲレンデに向かった時に同行してたはずなのに、いつの間にか姿が消えてったんだよね?」
そうなんです……てっきり仕事が忙しくて、転移魔法を使用して社長を務めている魔女魔法出版に帰ったんじゃないかな、って思っていたんですけど……
僕がそんな事を考えている中、
「婿様~、寒いです~」
僕の眼前に、リテールさんがいきなり現れたんです。
おそらく転移魔法で移動してきたんでしょう。
そのリテールさんの頭には、今も雪がのっかっています。
ガタガタ震えながら、自分で自分の体を抱きしめているリテールさん。
あまりにも寒そうなので、僕は着ていた制服をリテールさんにかけてあげたのですが、
「まぁまぁまぁ、やっぱり婿様ってばお優しいですわぁ……このままステルちゃんの弟か妹を一緒にメイクラブ……」
「……しなくて、いい!」
僕に、満面の笑顔で抱きついてこようとしたリテールさん。
そんなリテールさんの眼前に転移してきたスアが、魔法樹の杖を一振りすると、リテールさんの姿が一瞬にして消え去りました。
同時に、
どっぽ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん
と、店の裏にある川の中に、何かが落下する音が……