96章 助けたい気持ち
アカネが手を差し伸べたこともあって、ゴッドサマーは仕事を取ることができた。英雄の頼みというのは、断りにくいのかもしれない。
仕事ができるようになってからは、コンスタントに稼げるようになった。ゴッドサマーは10日間で、400万ゴールドを稼ぎ出した。「セカンドライフの街」の住民の、10倍近い金額を叩き出している。
ゴッドサマーは仕事の稼ぎのほとんどを、アリアリトウの食料代に使用する。それゆえ、自分自身の懐は豊かになることはなかった。自己犠牲の精神もいいけど、自分の豊かさも追及したほうがいいかなと思う。
ドアがノックされたので、アカネは応対する。
「アカネ、仕事が終わった」
「おつかれさま」
「アカネ、今日の稼ぎは40万ゴールドじゃ」
「セカンドライフの街」では、日払いの対応をする会社はそれなりにある。困窮している住民が多いため、1ヵ月後の支払いは遅すぎる。
「38万ゴールドを、アリアリトウの住民の食事代にした」
アリアリトウの住民は住む家がないだけでなく、日々の食べるものにも困窮している。「セカンドライフの街」以上に、庶民は厳しい生活を送っている。
「このまま仕事を続けていたら、3万の住民を救うことができそうじゃ」
ゴッドサマーの仕送りは、1ヵ月でおおよそ1000万ゴールド。「セカンド牛+++++」100グラムで、3万人の命を救うことができる計算になる。100グラムの肉が、30000人の命と同じく
らいとは思わなかった。
「2万ゴールドの一部を使って、『そどん』を食べてきた。食べられないことはないけど、おい
しいとは感じなかったのじゃ」
転生した日に見つけたものの、一度も足を運んだことはない。それゆえ、どんなところなのか興味があった。
「『そどん』はどんな料理なの?」
そばとうどんの中間かなと思ったものの、そういうわけではなかった。
「ご飯の上に牛肉がのせられていた。その上に、味噌と甘いソースがかかっていたのじゃ」
「そどん」の「そ」はソース、味噌のことを表していたのか。「そ」という言葉と矛盾はない。
「味噌とソースが喧嘩していて、肉の味を完全に殺していた」
味噌と甘いソースは合わないような気がする。ソースを使用するのであれば、しょっぱいものにした方がいい。
「いろいろな店で食べたけど、これはさすがにないかな。他人に嫌がらせをするために、作ったとしか思えなかったのじゃ」
食べたことはないものの、そんな印象はしなくもない。お金を払ってほしいなら、もっとまともなものを作った方がいい。
「ゴッドサマーはどの食材が一番の好みなの?」
「アカネから食べさせてもらった、『セカンド牛+++++』が一番じゃ。1000万ゴールドの値
段にふさわしい味だった」
どのような飼育をしたら、あんな上質な肉になるのだろうか。アカネの知らない秘密がたくさん隠されているのは確かである。
「高級な食材ではなくとも、充分においしいのじゃ。わらわは大満足じゃ」
食事をできることにありがたみを感じられる。その精神はとっても大事だと思った。
「ゴッドサマー、今度は別の店に行こうか」
「気を使わなくてもいいぞ。わらわには十分な稼ぎがあるのじゃ」
ゴッドサマーが一人で食べるのであれば、アカネはそれでいいかなと思った。
「アカネ、わらわは外で睡眠をとってくるのじゃ」
家を出ようとするゴッドサマーに対して、アカネは声をかける。
「アリアリトウの住民はどれくらいなの?」
「現状は4万くらいじゃ」
あと1万の食料があれば、飢餓で苦しむことはなくなる。アリアリトウの住民のために、人肌を脱ごうかなと思った。