97章 食料を送る
セカンドライフの庶民向けのスーパーに入店する。
高額報酬を得るようになってからは、金持ち専用の店ばかりに足を運んでいた。庶民向けのスーパーに足を運ぶのは久しぶりである。
アカネが入店した直後だった。シーンとしていた店内が、にぎわいを取り戻すこととなった。
「アカネ様・・・・・・・」
「アカネ様・・・・・・・」
「アカネ様・・・・・・・」
有名人になったからか、いろいろな人が近づいてくる。これでは買い物をするのは難しくなる。
「アカネ様、握手してください」
「私もお願いします」
「私もお願いします」
アイドルとして活動をしているならまだしも、アカネはごくごく普通の一般人である。握手会を開催するのは、大きな抵抗があった。
アカネはどうしようかなと思っていると、店内からアナウンスがなされた。
「お客様が心地よく買い物をしていただくために、不必要と思われる行為を禁止しています。協
力をよろしくお願いいたします」
アナウンスが流れても、客はストップをかけなかった。
「アカネ様、魔法を使ってください」
「アカネ様、握手してください」
「アカネ様、サインください」
快適に買い物できないのであれば、店にいる必要はない。適当な理由をつけて、店をあとにし
ようかなと思った。
「店に損失が生じたと判断した場合、全額を負担していただきます」
こちらのアナウンスは効果できめんで、住民の声はぴたりと止まった。ようやく、普通の買い
物をすることができそうだ。
レジで働いていると思われる女性を発見。アカネは声をかけることにした。
「すみません」
「アカネ様、どうかしましたか?」
「店長と話をしたいので、呼んでもらえますか?」
「はい、わかりました」
女性店員は頭を深く下げたのち、駆け足で店長のいる方向に向かっていった。
数分後、口髭を生やした店長がやってきた。日本に住んでいたからか、違和感はぬぐえなかっ
た。食べ物を扱う仕事では、髭は現金というイメージが強い。
「アカネ様、用件は何でしょうか?」
「スーパーに並んでいる食品の60パーセントをください」
全部を買い占めてしまうと、住民の食べるものがなくなる。アカネは40パーセントほど、残すことにした。
店長は驚きの表情を見せるも、すぐに店員としての対応をとった。
「アカネ様が、店の食料の60パーセントを購入される。レジ係はすぐに計算するよう
に・・・・・・」
金額を正確に出すために、計算を2~3度くらいは行うはず。計算が終わるのを待っていたら、数時間はかかってしまうことになる。アカネはそれを避けるために、案を出すことにした。
「計算するのは時間がかかるから、3000万ゴールドでいいかな」
店内にある食材は、100ゴールドから150ゴールドくらいのものが多数を占める。全部を足し合わせても、3000万ゴールドにはならないはずだ。
店長は脳内で計算をすると、にっこりとした笑顔を見せる。
「3000万ゴールドでOKです」
スーパーの大半を足し合わせても、「セカンド牛+++++」の300グラム程度となる。普段の生活が、いかに贅沢なのかを思い知ることとなった。
店内の食料を買った女性に対して、住民は素直な感想を口にしていた。
「アカネ様は大金持ちだね」
「そりゃそうだ。『セカンドライフの街』で付与金を払った人なんだから」
「私たちとは住む世界が違うよ」
金銭については天と地ほどの差がある。
「アカネさん、購入された食材はどうなされますか。配達サービスなどもありますよ」
「テレポーテーションであるところに送るんだ」
テレポーテーションの魔法を使って、アリアリトウに購入した食材を送る。これさえあれば、
少しくらいは飢えをしのげるのではなかろうか。
「アカネさんは物を移動させることもできるんですね」
「うん。いろいろなスキルを持っているよ」
スキルのおかげで大金持ちになれる一方、とんでもない仕事を押し付けられることもある。スキルは一長一短といえる。
「アカネさん、今日はありがとうございした。またの機会があれば、お越しください」
商品が少なくなった店内、満面の笑みを浮かべている店長、の2つが印象的に強く残ることとなった。