94章 賛否のわかれるラーメン
数分後、ラーメンができあがった。
「ラーメンができあがりました」
アカネの前に登場したのは、ラーメンとは似つかぬものだった。一言で例えるなら、薬膳スープに麺を入れたかのようだ。これをラーメンのジャンルに、入れてもいいのだろうか。
「ラーメンは何味ですか?」
店主から帰ってきた答えは、予想していないものだった。
「ヨモギの出汁をベースにし、調味料で味を調節しています」
ラーメンの出汁にヨモギを使用するなんて。ヨモギ入りのラーメンはあるものの、出汁として使用するのは初めて訊いた。
見た目は最悪だけど、味は奇跡的においしいという可能性もある。アカネは世にも不気味なラーメンを口に運ぶことにした。
「おいしい」
奇抜な色であるにもかかわらず、味はとてもよかった。そのことに対しては、プラスにとらえることにしようかな。
アカネは二口目を食べることはしなかった。味がどんなに優れていても、見た目の悪い食品を食べる気になれなかった。
二口目を食べなかったからか、店長は寂しそうな表情を浮かべていた。
「アカネさん、うちのラーメンに不満があるんですか?」
適当な理由をつけると、ラーメンを食べるようにすすめられる。アカネは本音を話すことにした。
「見た目が悪すぎて・・・・・・」
客は味を重視するものの、第一印象はとっても重要だ。ここで心象を損ねると、とりかえしは
つかない。
「アカネさんと同じ感想の人はたくさんいるよ。緑色のラーメンは受け付けないようだ」
わかっているのであれば、緑色のラーメンをやめればいいのに。客から不人気のラーメンというのは、売れることはない。
「緑色のラーメンを提供するのはどうしてですか?」
「よそとは違ったラーメンを出したいんだ。全ての店がスタンダードな味では面白みがない」
独創性を追い求めるのはいいけど、一線を超えるのはタブーだ。新しいやり方の中にも、最低限のルールは必要となる。
「ラーメンを受け付けない人もいるけど、このラーメンだけを食べたい人もいる。そういう人のために、ラーメンを作っているんだ」
へんてこなラーメンを食べたい人なんているのかな。アカネにはその感覚が分からなかった。
ユラがラーメンを豪快に流し込んでいる。見た目が悪かったとしても、食べられる性格をしているようだ。
「アカネ先輩、ここのラーメンは世界一ですよ」
世界一といわれたことで、店長はご機嫌だった。
「お嬢ちゃん、ここのラーメンが好きなのか」
「はい。今まで食べた中で一番の味です」
店長は一番といわれたことで、鼻の先が伸びることとなった。
「そうだろう、そうだろう、がっはっは・・・・・・」
ユラはトッピングのトカゲを口にする。アカネはそれを見た直後に、気分が悪くなってしまった。
ゴッドサマーはかみしめるように、口の中に運んでいた。食べ物を食べられることへの、ありがたみを感じているのかなと思った。
ユラは数分としないうちに、ラーメンを食べきってしまった。彼女はここのラーメンが、大のお気に入りのようだ。
「アカネ先輩、おかわりを食べたいです」
ユラの辞書には、遠慮の2文字はないようだ。ある意味でうらやましくもあり、ある意味で憎たらしい性格をしている。
「いいよ。好きなだけ食べてよ」
高級料理店に連れてこなくてよかった。ユラと一緒に食事に来たら、1億ゴールドが瞬く間に飛ぶことになる。
アカネは自分のどんぶりを見つめる。食べ残しのラーメンが、「食べて」、「食べて」と訴えかけているように感じられた。
二口目を食べると、完全に箸をストップさせた。ユラにとっては最高のラーメンだけど、アカネにとっては最低のラーメンだった。