雪山で雪遊び その3
デラマンモスパオンと遭遇して、1時間ほど経過しました。
「さ、みんなお肉が焼けたよ」
厨房で調理をしていた僕は、焼けた肉がのったお皿をみんなが座っているテーブルの上に持って行きました。
食堂の中は、スアが設置してくれた室温調整魔石のおかげでポカポカです。
「うわぁ、すごく美味しそうです!」
僕が持って行ったお皿。
それにのっかっている巨大なステーキを見つめながらパラナミオが満面の笑みを浮かべています。
厨房の魔石コンロの魔石は全部切れていましたけど、スアが魔法で魔石の魔力を補充してくれたおかげで、全部使えるようになったんです。
そのおかげでこうしてこんがり焼くことが出来た次第です。
で、出来上がったこのステーキですが……スアが魔法袋に入れて持ってきていた食用になる薬草をサラダ代わりにして添えてあります。
「さ、デラマンモスパオンのステーキだ。みんなしっかり食べてね」
僕はみんなに笑顔でそう言いました。
……ここまでお話すれば、もうおわかりですよね?
宿に向かって突進してきたデラマンモスパオンの群れなんですが……
「……邪魔」
スアが、そう言って水晶樹の杖を一振りすると、空中から巨大なつららが降ってきまして、それがデラマンモスパオンの脳天を……っと、ちょっとグロい表現になってしまうので詳細は割愛しますが、とにかくスアがすべてのデラマンモスパオンを倒してしまったわけなんですよ。
スアによりますと、
「……このデラマンモスパオン……骨や牙は魔法道具の素材になるし、お肉は美味しい、よ」
とのことでしたので、仕留めたデラマンモスパオンをですね、早速スアに魔法で解体してもらいまして、それをすべて魔法袋に保存した次第なんですよ。
ただ、このデラマンモスパオンなんですが、デラマウントボアよりも一回り大きかったもんですから、僕の魔法袋では入りきらなくて、スアが予備で持って来ていた魔法袋を使用してようやくすべて保存出来たんです。
これだけあったら、スアの魔法道具の素材としても、僕の料理の素材としても当分使えそうですね。
で
そのお肉をですね、とりあえずお試しとばかりに焼いてみたわけです。
せっかくのマンモスの肉ですからね。
超厚切りのステーキにしてみた次第です。
えぇ、某はじめての人間のアニメのような、あんな感じの分厚いステーキです、はい。
「うわぁ、いい匂いです! それにすっごく美味しそう!」
目の前に置かれたお肉を見つめながら、パラナミオは満面の笑みを浮かべています。
「ちょっと量が多いかもしれないから、無理に食べきらなくてもいいからね」
僕は、そう言いながらみんなの前にお肉を並べていきました。
お肉は、結構豪快に焼いたので、2人で1皿にしてあります。
リョータとアルカちゃん
アルトとムツキ
そして、僕とスアとパラナミオです。
僕達が3人で1皿なのは、スアがすごい小食だからなんですよね。
案の定、このデラマンモスパオンのステーキを前にしたスアは、拳程度の大きさのお肉を切り分けて自分の皿の上に置きました。
子供達の中で一番小食なアルトでもその5倍は食べていましたので、スアがいかに小食かおわかりいただけたのではないでしょうか。
でも、スアはそのお肉を
「……おいし……とってもおいし」
満面の笑顔でそういいながら、もきゅもきゅと食べてくれていました。
その様子が愛くるしくて、僕が惚れ直したのは言うまでもありません。
かなりの量のお肉だったのですが……あまりにも美味しかったもんですから、みんなで全部を食べきってしまいました。
◇◇
食事を終えた僕達は、少し休んでから雪のゲレンデに繰り出しました。
「とりあえず、これで遊んでみようか」
そう言って僕が魔法袋の中から取りだしたのは、ソリでした。
そうなんです……コンビニおもてなし本店に併設されています倉庫、その中に保管されている在庫の中から引っ張り出してきた品物です。
これ、コンビニおもてなしの創業者である僕の爺ちゃんが、コンビニおもてなしで販売するために仕入れたもののまったく売れなかったため、倉庫の中に死蔵されていた品物の1つなんですよ。
……しかしあれですよね……僕がもといた世界の中でも、僕が住んでいたあたり……つまりコンビニおもてなし本店があったあたりって、多少雪は降ってましたけど、雪遊びが出来るほどは降りませんでしたし、当然周囲にスキー場もありませんでした。
支店も、そんなとこには一軒もありませんでしたし……爺ちゃんってば、そんな状況でなんでこのソリを何十個も仕入れてたんでしょうね……
ま、それはさておき……
僕達は早速ゲレンデの斜面を駆け上がっていきまして、ソリでその斜面を滑り降りていきました。
「きゃああああ、楽しいいいいいい」
僕の前に座っているパラナミオが、楽しそうに声をあげました。
その後方からは、リョータとアルカちゃん、アルトとムツキが同じように歓声をあげながら斜面をソリで滑り降りています。
一度降りると、僕達は再度斜面を駆け上がっていきました。
子供達は、みんなぜぇぜぇ荒い息をはいていますけれども、一様に満面笑顔です。
そして、再びその上からソリで斜面を滑り降りていきます。
今度は、僕の前にはスアの姿もありました。
小柄なスアは、僕とパラナミオの間に問題なくおさまりました。
そんな3人で歓声をあげながら滑り落ちていきます。
雪だるま状態のスアも、その背中から楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
子供達が、ソリをすっかり気に入ったもんですから、僕達はそのまま2時間近くソリで遊び続けました。
◇◇
そろそろ子供達も疲れてきた様子でしたので、
「一回宿に戻って一休みしようか」
僕は、みんなに向かってそういいました。
すると……スアが、何やら森の方を見つめていました。
「スア、どうかしたのかい?」
「……誰か来た……敵意はないみたい」
「え? 誰か?」
スアに言われて、僕もスアが見つめている方へ視線を向けました。
すると、森の中から2人の人影と、1匹の動物の姿が現れました。
その2人と1匹は、まっすぐ僕の方へ向かってきます。
そりゃそうですよね。
どう見てもこの中で一番大人に見えるといいますか、この世界でも背が高い方に分類される身長190cmの僕のことを、この集団のリーダーと見なして向かってくるのは、まぁ、当たり前と言いますか……
「あんた……ここは危険じゃクマ、すぐに麓に降りなされクマ」
2人のうちの1人、白い髭の熊人さんらしき方が、僕の前に到着するなりそう言いました。
その前には、小柄な女の子が立っているのですが、
「ここにはね、デラマンモスパオンが住み着いちゃってるクマ。だから人や亜人は近寄ったら危ないクマよ」
熊人らしいその女の子は真剣な眼差しでそう言いました。
その言葉に、おじいさんも頷いています
その女の子の足下には、白い子犬の魔獣が寄り添っています。
その女の子を守るようにして、前に立ちはだかって僕達を見つめていますね。
「あの、デラマンモスパオンですよね?」
「あぁ、そうじゃクマ」
「あの……それでしたら、僕の奥さんが退治してくれたといいますか」
「「は!?」」
僕の言葉に、2人は目を丸くしました。
「そそそそんな馬鹿なことが……」
「そうクマ……あのデラマンモスパオン達は、このチウヤのみんなが退治しようとしたのに駄目だったクマなのに……」
2人は目を丸くしたままそう言いました。
で、まぁ、論より証拠といいますか……納得してもらうために、スアが保存していましたデラマンモスパオンの巨大な牙を魔法袋から取り出してもらいました。
ゲレンデの上に、巨大なデラマンモスパオンの牙がどんどんどんとならべられました。
それを見た2人は、
「……ほ、本当じゃクマ……本当にあのデラマンモスパオンを退治なさったクマ」
「お爺ちゃん……信じられないクマ」
2人は、その牙を見つめながら涙を流しながら抱き合っています。
えっと……これってどういうことなんでしょうかね?