雪山で雪遊び その2
僕達はスアの魔法の絨毯に乗って空中を移動中です。
スアの転移魔法は、一度行った場所へならどこへでもいけるのですが、
「……雪山は寒いから……ほとんど行ったことがない、の」
とのことでして、スアの転移魔法で移動出来る雪山がなかったもんですから、こうして魔法の絨毯で移動しているわけなんです。
それくらい寒さが苦手なスアなんですけど、今回は子供達行きたいといったもんですから
「……頑張る」
そう言って魔法の絨毯を準備し、乗り込んでいったのですが……
魔法の絨毯の先頭に座っているスアは、いつもの布の服……の上に、防寒着を10枚近く重ね着していまして、さらにその上に防寒魔法を展開しています。
なので、横で見ているとまるで小さな雪だるまみたいなんです。
「あのさ、スア……防寒魔法だけでどうにかなるんじゃないの?」
「……見てるだけで、だめなの……なんか身につけておかないと……」
僕の言葉に、スアはそう言いました。
魔法の絨毯が向かっている先には、一面雪に覆われている雪山の山脈が横一列に広がっています。
それを見ているからでしょう……スアの体は重ね着しまくった上に防寒魔法をかけているにも関わらずガタガタ震えています。
でも
その姿がなんといいますか……少々不謹慎なんですけど、見ていてすごく可愛いんです。
いつものように僕の膝の上にちょこんと座っているスア。
その手に水晶樹の杖を持ち、前に向けてかざしています。
魔法の絨毯はその杖が指し示す方向に向かって進んでいます。
僕は、そんなスアを後ろから抱きしめました。
「これで少しはあったかく感じないかな?」
僕がそう言うと……スアは、ガタガタ震えている体を僕に預けてきました。
「……うん……ありがと」
その言葉に続いてスアの体の震えがとまり、そしていい感じに力が抜けていきました。
……どうやら、落ち着いたようですね。
スアってば、伝説級の魔法使いですけど、こういった子供っぽいといいますか、可愛いところがあるんですよね、ほんと。
僕がそんなことを思っていると、どうやらそんな僕の思考を読んだらしいスアは
「……もう……私、子供っぽくない、よ」
少し拗ねたような声でそう言ったかと思いますと、お尻をふにふにと動かし出しまして……って、あのスアさん……そのお尻に下にはですね、僕のお稲荷さんがですね……あの、そんな絶妙な感じで刺激されたら……
「……ね、子供じゃない……子供じゃ、旦那様を……ね」
スアは、少し悪戯っぽい感じでそう言うと、僕がドギマギしている様子を見て満足したらしく、お尻の動きを止めてくれたのですが……
えっと……こ、今度はですね、僕のお稲荷さんがちょっと元気になってしまったと言いますか……
「……あ、あの、ちょっと旦那様? ……こ、これは、その……そこで大きくなられると、困ってしまう」
「ちょ、ちょっと待って、頑張っておさめるから、うん」
僕とスアは、後ろの子供達に聞こえないように、小声でそんな会話を交わしていた次第でございます……
◇◇
僕とスアの後方、魔法の絨毯に乗っているパラナミオ・リョータ・アルト・ムツキ・アルカちゃんの5人は、周囲の景色を眺めながら嬉しそうな声をあげていました。
「うわぁ、とっても綺麗ですねぇ。魔法の絨毯から見る景色大好きです!」
満面の笑顔で声をあげるパラナミオ。
「僕も大好きです!」
「アルカも、リョータ様の次に大好きアル」
リョータとアルカちゃんも、並んで座って周囲を見回しています。
「アルトも、この景色が大好きですの」
「ムツキもにゃし」
アルトとムツキも、笑顔で山脈を見つめています。
ど、どうやら僕とスアがちょっとまずいことになっていることに、誰も気がついていなかったようです、はい。
そのことに安堵すると同時に、みんなが楽しそうに笑顔を浮かべていることに、僕も笑顔になっていきました。
◇◇
僕達が向かっているのは、チウヤという雪遊びが楽しめるゲレンデです。
ここなんですけど、ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコが
「最近行ってないんですけどねぇ、あそこは温泉もあってなかなかいいところですので、お勧めですねぇ」
そう言って教えてくれたんです。
地図もくれたもんですから、その地図に従って魔法の絨毯を動かしているスアです。
ちなみに、地図はスアが手にしている水晶樹の杖の水晶部分に入っています。
この水晶部分って、ちょっとした魔法袋のようになっていまして、こうして地図を収納することが出来るんです。
で、スアがその地図を選択し、使用することで魔法の絨毯に行き先を指示できるそうなんですよ。
◇◇
……ほどなくしまして
遙か向こうに見えていた雪に覆われている山脈が、あっという間に目の前に近づいてきまして、その一角へと魔法の絨毯が着陸していきました。
「……あれ?」
周囲を見回した僕は、思わず首をかしげました。
いえね……なんか様子がおかしいんです。
「……パパ、誰もいませんね」
パラナミオも、少し心配そうな表情をその顔に浮かべながら、僕の腕にそっと抱きついてきました。
周囲を見回してみますと……平坦なゲレンデっぽい場所が広がっていまして、そのゲレンデに沿うようにして宿らしい建物もいくつかあるんです。
ですが……その宿にも、ゲレンデにも人の気配がまったくありません。
それどころか、よく見るとその2階建ての宿は、どれもぐちゃぐちゃに壊れているんです。
「……ひょっとして、少し前に潰れちゃったのかな? それで、雪崩か何かに巻き込まれたとか……」
「……どうなのかな」
僕の言葉に、首をひねったスアは、建物に向かって水晶樹の杖をかざしました。
どうやら、建物の様子を調べているようですね。
で、しばらくそうしていたスアは、水晶樹の杖を降ろすと、
「……しばらく誰も使ってないみたい。生き物の気配もない、わ」
そう言いました。
「う~ん……となると、ここに泊まることは出来そうにないなぁ」
建物を見回しながら僕は首をひねりました。
ここで一泊して、温泉まで楽しもうと思っていたのですが……これではどうにもなりません。
宿泊どころか、休憩するところもないんですからね。
これは、予定を日帰りにして夕暮れまで遊んで帰るしか……
僕がそんなことを考えていると、スアが水晶樹の杖を振りかざしました。
「……うん、大丈夫、よ」
スアはそう言うと、詠唱しながら杖を振り回していきました。
すると……なんということでしょう。
雪に覆われている森らしき場所の中から、ズボズボと樹木が飛び出してきたんです。
空中に浮かんだその木は、その場で加工されていきまして、宿の破壊されている部分にどんどんはまっていくではありませんか。
そして、待つこと30分といったところでしょうか……
僕達の前には、すっかり修復された宿屋の建物が1軒鎮座していました。
隣にあったもう一軒の宿は
「……内装の補修に使わせてもえらった」
と、スアが言いましたようにですね、この宿を補修するためにあれこれパーツなどを使用させてもらったため、宿から荷馬車停泊所へと姿を変えていたのです。
こういった建物修理なのですが……これもですね、スアの水晶樹の杖の中に、建物の設計図がいっぱいおさめられているそうでして、今回の宿に近い形状の建物の図面を選択して、その図面に近い状態に修復していったそうなんです。
当然、雪山の中の建物ですので、雪対策も別途施しているそうです。
早速みんなで宿の中に入っていきました。
宿の一階部分は大きな食堂になっていました。
「おそらく、お客さん達がここで食事をしていたんだろうね」
周囲を見回しながら、僕はそう言いました。
スアが修復してくれたおかげで、厨房もすぐに使えそうです。
「食材があれば、何か作れるんだけど……」
このチウヤのゲレンデには宿の食堂があって、そこで食事が出来ると聞いていたので何も準備してきていなかったんですよね。
「よし、スアの転移魔法で一度家に……」
僕がそう言うと、
「……大丈夫みたいよ、うん、まかせて」
スアは、そう言うと宿の外に出ていきました。
何やら前方を見つめています。
……よく見ると……向こうから何かでっかいものが……って、あれ?
「スア……あれってまさか、デラマウントボア!?」
そうなんです……小山くらいありそうなでっかい生き物が数匹、このロッジに向かってやって来ていたのです。
「……これはデラマンモスパオン……デラマウントボアよりも凶暴な、古代怪獣属の古代種」
「古代階従属の古代種って……確か気性が荒いんじゃ……」
「……デラマンモスパオンは、さらに人種族や亜人種族も嫌いなの」
「え? じゃ、じゃあ逃げた方がいいんじゃ……」
僕は、スアを見つめながらそんな言葉を発していました。
そんな僕達に向かって、デラマンモスパオンが一斉に突進してきたではありませんか……