92章 ユラのわがまま
「アカネ先輩、一日だけ泊めてくれませんか?」
「ユラ、家はどうしたの?」
「まだ建てていないんです」
「こちらに来てから、どこに泊まっていたの?」
「宿を利用していました」
宿は一泊で5000ゴールド。食事代は最低ランクで3000ゴールドなので、8000ゴールドで宿泊できる。仕事を続けていれば、問題ない金額である。
「宿は素っ気ないので、他のところに宿泊したいです」
他のところに宿泊したいのであれば、家を建てるのが手っ取り早い。そうすれば、永続的にそこに泊まることができる。
腕組みをしながら話を聞いていた、ゴッドサマーが口を開いた。
「ユラも外で眠ればいいじゃないか」
アカネもそのようにしてほしいと思っているものの、本音は心の中にしまっておくことにした。本心をぶつけてしまったら、火に油を注ぐことになる。
「私は嫌です」
年代の女性が外で眠っていたら、襲われるリスクがある。それゆえ、外で一人で眠るのは大きな抵抗がある。
ゴッドサマーは咳払いをしたあと、
「わらわは外で眠っているぞ」
といった。外で眠っていることに対して、誇りを持っているように感じられた。
「外で眠ると、新鮮な空気を吸うことができる。月もとっても綺麗じゃし、夜のわびさびも最高じゃ。いいことづくしじゃぞ」
「私は絶対に嫌です」
ゴッドサマーは大きなため息をついた。
「ユラはわがままな奴じゃのう」
ユラはむっとした表情になった。
「私のどこがわがままなんですか?」
「ユラの取りうる選択肢は、家を建てる、宿に泊まり続ける、外で眠るという三択じゃ。アカネの家で泊まるというのは、図々しいにもほどがあるぞ」
心の中で激しく同意する。ユラのいっていることは、わがまま以外の何物でもない。
「一日くらいはいいじゃないですか?」
「ユラの性格からして、二日、三日といいそうじゃ」
戦いを申し込んできたときは変人だと思っていたけど、常識的な考えを持ち合わせているのかな。ゴッドサマーに対する見方が少しだけ変わることとなった。
「わかりました。自分の家を建てます」
「最初からそうすればいいんじゃ」
ゴッドサマーは何度も首を縦に振っていた。
「アカネ先輩、家を建てる方法を教えてください」
「私は家建て名人にお願いしたから、家の建て方はわからないの」
「家建て名人がいるんですか。そちらにお願いしたいです」
「1億ゴールドは必要になるんじゃないかな・・・・・・」
1億ゴールドと聞き、ユラはがっくりとうなだれていた。
「私には無理ですね」
「住民に聞くのを手伝うよ」
「ありがとうございます」
ユラのおなかの音がする。彼女は空腹の限界に達しているのかもしれない。そんな女性を食事に誘うことにした。
「ユラ、ゴッドサマー、ラーメンを食べに行こうよ」
「アカネ先輩のおごりですか?」
「うん。三人分を支払うよ」
ユラは子供のように喜んでいた。
「やったー。ラーメンが食べられる」
「ラーメンはどんな食べ物なのじゃ?」
興味を持っている魔物に対して、簡単に説明する。
「麺にスープを絡ませた食べ物だよ」
「どんな味がするんじゃ」
「いろいろな味があるから、一概にはいえないかな」
ラーメンは醤油、味噌、豚骨と幅広い。
ユラは服の裾を引っ張った。
「アカネ先輩、早くいきましょう」
「わかった、わかった」
ラーメンを食べるために、三人は家を出た。