164 結葉様の思い
『サーヤ、これは~?』
「これはにぇ~」きゃっきゃっ
サーヤはみんなに説明するというよりは、きゃーきゃー言いながら夢中でテーブルに中身を広げて見せている感じだった。おそらくジーニ様とゲンが今、少し離れていることにも気づいていないと思う。どちらにとってもサーヤが気づかない方が助かるだろう。でも、そろそろ…
ジーニ様とゲンは大丈夫かしら?と思っていると二人が戻ってきたようだ。ちらっと視線を向けると、ジーニ様が頷いてきた。なんとか、大丈夫のようだ。
〖ありがとう。たすかったわ。サーヤは?〗
コソッとジーニ様が話しかけてきた。
『大丈夫よぉ。一生懸命にテーブルにポシェットの中身を広げてるわぁ』
〖そう。良かったわ〗
ジーニ様がほっと息をつく。
それよりも気がかりは…
『ゲン、大丈夫ぅ?』
『ああ。大丈夫だ。ありがとう』
うん。さっきよりはマシな顔になったわね。さっきは明らかに大丈夫じゃなかったもの。明るく振舞っているから忘れがちだけど、ゲンも傷ついた一人なのよね。
バートが事件のことを教えてくれたわ。
『ゲン殿が、いない時を狙ってサーヤたちは襲われたそうです』
淡々と話す様子から逆にバートの怒りが伝わってきた。
〖きっとヤツが操ったのね…〗
ジーニ様が爪を噛みながら言う。言いようのない怒りや、悔しさなどを抑えているのだろう。
『主神様も同じことをお考えでした。ゲン殿があちらの世界では守護者の役割をしていたのでしょうね。だから留守を狙われた。それで、ゲン殿が出先から戻り、サーヤたちを訪ねると、お祖母様は既に刺された後で、まさに母親がサーヤを刺そうとしている所だったと…』
バートの握りしめた拳がギリギリと音を立てている。
『なんという事だ…』
アルコンが呟いた言葉はみんなの言葉だった。
『それで、それからどうしたのぉ?』
恐ろしくて聞きたくはなかったけど、聞かなければならなかった。
『ゲン殿が危ういところで間に入り、サーヤは助かりました。ですが、その代わりに』
〖…ゲンが刺されたのね?〗
バートが黙って頷く。誰も声を出せなかった。しばらくの沈黙の後、
『ゲン殿は刺されながらも、何とか母親を拘束し、警察というものに通報したそうです』
バートが絞り出すように話を再開した。
『サーヤは?サーヤはどうしていたのですか?』
ギンの声は震えていた。
『サーヤはお祖母様に抱きしめられたまま、全てを見ていたそうです。その時には、もうサーヤの目からは全ての感情が消えていたと…』
きっと、さっきのサーヤだ。見開いた目。開いているのに何も映していないガラスのような目…。
『そう...サーヤのおばあちゃんは、息絶えてもサーヤを抱きしめて守ってくれていたのねぇ』
正にその身に代えて...
〖あぁ 私たちがもっと早く……〗
ジーニ様は両手で顔を覆ってしまった。
『ジーニ様、それはどうしようもなかったことです』
バートも口ではそう言っていたけど、顔はジーニ様と同じことを語っていた。
『それで、ゲンはどうしたのぉ?』
どうしても、その先を聞かなければいけない。
『ゲン殿はそのまま数日、目を覚まさなかったそうです。その間にサーヤは施設に入れられ、サーヤ達の住んでた家も取り壊しが決まってしまったと』
〖ゲン、サーヤ……〗
『ゲンは、目が覚めてから、役所という所にサーヤを引き取りたいと何度も掛け合ったそうですが、相手にされなかったそうです』
どこの世界でも人間というのは厄介な…!
『ゲンも向こうの世界で戦ってくれてたのねぇ…』
今回は私たちがいる。人間に手出しはさせないわ。
『ゲンは、取り壊される前にと、サーヤたちの家に忍び込んで、なんとかあれだけの物を持ち出したそうです。本当はもっと持ち出したかったけど、警察とやらに気づかれる訳にもいなかったと』
〖それがあのバックの中身なのね〗
必死にサーヤの命だけではなく、思い出も守ろうとしてくれた。ゲンには感謝しかないわ。
『ゲン殿はずっと、悔やんでいたそうです。自分があの時出かけなければ、もっと早く戻れていれば、怪我をしなければ、もっとなにか出来ていれば、と』
ゲン…どんなに辛かったか。でも、ゲンのせいではないわ。それを分かってもらわないといけないわね。
〖ゲンも傷つけられた一人なのね。身も心も、おそらく、今ここにいる誰よりも〗
本当に、ジーニ様の言う通りだ。
『強いですな。そんなことサーヤの前でまったく感じさせない』
ギンの言葉にみんなが頷く。
本当に。あんなに明るく、誰よりも明るく豪快な姿は
『それもこれもサーヤのためなのねぇ』
〖そうね。その通りね〗
サーヤのために抱えている苦しみを微塵も出さないようにしているゲン。本当に強いわね。でも、気をつけてあげないと。彼ももう大事な仲間、家族なのだから。
周りを見ると、アルコンやギン、バートも心配そうにゲンを見ている。泉の住人たちも、訳が分からないながらも心配そうに見ている。彼らにもあとで説明しなければ。彼らも、もう家族なのだ。知っていてもらった方がいいだろう。考えたくはないが、ヤツが力欲しさに水の精霊樹を狙わないとも限らない。用心に越したことはないはず。
何より、可愛いサーヤを守る理解者、仲間は多い方がいい。もっと戦える力が欲しい。サーヤを守る力をもっと備えなければ。
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少々、シリアスに...