165 結葉様の決意
サーヤはとても不思議な子だ。
愛し子は世界から愛される存在。惹き付けられるのは当然かもしれないけれど、一目見て、この子を好きになり、守らなくてはいけないと思った。
過去にも愛し子と呼ばれる子が現れたことはあったが、人やエルフにいいように利用され、すっかり嫌気を覚えていた私は、過去の愛し子を目にしても、興味を覚えることもなく、関わるようなことはしなかった。
そして私の存在をめぐり争いまで起こすようになった者たちにいよいよ見切りをつけ、精霊樹ごと人もエルフも足を踏み入れることすら出来ないこの森にやってきた。
思えば不思議な巡り合わせだと思う。示し合わせたわけでもなく、ギンやハクたちが護る地に、神が愛し子の守役として選んだフゥとクゥがエンシェントドラゴンの子らと降り立ち、その近くに私や泉の住人たち、もうひとつの精霊樹、エンシェントスライムまでがいた。
まるで愛し子を迎え入れるために用意されていたかのように。
全て偶然なのか、それとも誰かの手の平で転がされているのかは分からない。だけども、ここにいる者たちはみんな私をちゃんと「個」として見てくれる。利用するための道具としてではなく、ちゃんと私自身を見てくれている。サーヤがひとりひとりを、あのキラキラの目で見てくれたように。あの目に救われたのは私だけではないはずだ。絹や青葉、山桜桃、春陽もそうだろう。これから来るというエルフやドワーフたちもそうであって欲しいと思う。
まだ正直、ここにエルフや人間が現れた時、私は素直に迎え入れることが出来るか分からないけれど、サーヤの力になってくれるのなら、仲良くなれればいいと思う。
私たちの願いは、ヤツに目をつけられ辛い思いをしたサーヤを護り、幸せにすること。サーヤが一番悲しむのは、おそらく自分ではなく自分の仲間が傷つくこと。だから、サーヤだけじゃなく、みんなも自分も護る。そして、その為にはみんなで強くならなくては…
「むすびはしゃま~」
つんつんと服を引っ張られて呼ばれていたことに気づいた。
『あらぁ なあに?サーヤ』
いけない。つい考えこんでしまったようだ。
「むすびはしゃま、だいじぶ?どっかいちゃいいちゃい?」
よほど考え込んでいたのだろう。心配かけちゃったわね。
『大丈夫よぉ。ありがとう。こんなに賑やかなのは久しぶりだわぁって思ってたのよ。サーヤのおかげねぇって』
サーヤは目をぱちぱちしている。可愛いわねぇ。
「さーにゃにょ?」
ふふ。不思議そうにしてるわねぇ。
『そうよぉ。ほら、私ずっと引きこもりしてたから~。お話し相手はハチさんたちくらいだったでしょぉ?美味しいもの食べられて、みんなでわいわいできて嬉しいわぁって思ってたのよぉ♪』
ほんとに、たった数日で私の、いいえ、私たちの周りは一変した。サーヤの存在で光り輝くものに変わった。
「えへへ~ しょっか~♪さーにゃみょ、うれちい~」
嬉しそうに笑うサーヤ。この笑顔を守らなくては。
『あらぁ、ほんとぉ?ますます嬉しいわぁ』
サーヤもみんなも。そう思ってサーヤを抱きしめる。
「えへへ~」
〖あら!ずるい!私にも抱きしめさせなさい!〗
『ジーニ様はいつもやってるじゃない~。それに、ジーニ様が抱きしめるとサーヤが窒息しちゃうわぁ~。ねぇ~?』
「ふ、ふにゅう~」
ふふっ困ってるサーヤも可愛いわぁ。
〖そ、そんな、サーヤ…〗
よろりと、後ずさり大げさにショックを受けるジーニ様。だけど、サーヤはみんなのサーヤよ。ふふ。ほら
『次はぼくだよ~。サーヤはぼくのもふもふ大好きだもんね~』
「あい!もふもふはしぇいぎ!」
にこにこのサーヤ。
ぴゅい『あたちたちの』
きゅい『ぽんぽんだって』
ぴゅいきゅい『『きもちいーよ!』』
お腹を突き出してポーズをとる双子に続いて、ボクもワタシもとちびっこ達のアピールが続いている。みんなにこにこと、いい笑顔だ。
この笑顔を、幸せを守らなくては。きっと、みんな同じ気持ちだと思う。
みんなで強くなろう。サーヤのためだけじゃなく、仲間のためにも。
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お読みいただきありがとうございますm(*_ _)m
結葉様もシリアスさんになることもあるというね...