87章 圧勝
アカネは戦闘をする前に、家にバリアをはることにした。破壊されようものなら、住む家を失うことになる。
「ゴッドサマー、どこからでもかかってきて」
「よし、いくぞ」
ゴッドサマーは呪術らしきものを唱えていた。アリアリトウのドラゴンは、飛び道具を使用することができるようだ。
「アカネ、わらわの攻撃を受け止められるかな」
人間なら簡単に吹っ飛びそうな、竜巻がこちらに近づいてきた。ゴッドサマーはアリアリトウにおいて、かなりの力を持っているのを感じた。
バリアで攻撃を遮断できるけど、それすら面倒に思えてきた。「ぜったいぼうぎょ」のスキルを持っているので、ダメージを受けることはない。
アカネに竜巻が直撃する。敵の攻撃を受け付けないスキルを持っているため、かすり傷一つ負わなかった。
「わらわの攻撃を生身で受けるとは。お前は本当に人間なのか」
ゴッドサマーがひるんだすきに、氷の魔法を唱えることにした。
「巨大な氷よ 相手を凍らせてしまえ アイスクラッシャー」
アカネの魔法攻撃は、ゴッドサマーに一直線に向かっていく。あまりのスピードだったからか、バリアを張る猶予はなかった。
目の前に映ったゴッドサマーは、氷の石像さながらだった。あまりにもきれいだったので、感動すら覚えてしまった。
氷漬けにしておくわけにはいかないので、炎の魔法で溶かす。温度が高くなりすぎないよう、火力を調整した。
氷から解放されたゴッドサマーは、意外と平気そうだった。日本語で神様というだけの話はある。
「私の勝ちだね・・・・・・」
ゴッドサマーは納得できないというように、首を大きく振っていた。
「わらわは納得できない。もう一度勝負をするぞ」
全ての攻撃を無効化する身体なのである。どんな相手であったとしても、勝機は完全にゼロである。一〇〇〇回、一〇〇〇〇回の勝負をしたとしても、万が一にも勝ち目はない。
「私は『ぜったいぼうぎょ』のスキルを持っているんだよ。どうあがいたとしても、あんたに勝ち目はないよ」
数秒後、首を絞められる感覚があった。攻撃がダメなら、窒息させようという考えのようだ。
ゴッドサマーはピンピンとしている女性を、信じられないものを見ているかのような瞳で見つめていた。
「お前、首を絞められているのに苦しくないのか」
「私は空気を吸わなくても生きていけるからね。窒息死する確率はゼロなんだよ」
全力で握りしめているのだろうけど、これっぽっちもいたくなかった。赤ちゃんが優しく包み込んでいるかのようなくすぐったさだけを感じた。
「空気を吸わなくても生きられるのも本当か。こちらも嘘かと思っていた」
戦闘をするのも面倒になってきたので、とっとと終わらせてしまおう。
「これくらいにしておかないと、あなたの命を保障できないよ」
アカネは闇に葬るための呪文を唱える。
「アブラカ アブラカ アブラカ ナムアミダブツ」
殺されてはたまらないと思ったのか、ゴッドサマーは白旗をあげる。
「降参だ。負けを認めるから、命だけは助けてくれ」
戦いには勝利したものの、気分は晴れていなかった。無駄な戦闘をしたことによる、心の疲れが大きかった。