84章 母親を助ける
「おねえちゃん、おかあさんはここだよ」
身体の調子が悪いらしく、額から大量の汗が流れている。医師でなくとも、危険な状態であることが伝わってきた。
「おかあさんは働きすぎで倒れたの」
ユラと同じように働いていたのだとすれば、生命を維持するのは厳しくなるのは当然だ。人間の身体は働ける時間に限界がある。
少女の頬から涙がこぼれる。そんな姿を見ていると、胸が痛むこととなった。
アカネは回復魔法を使用する。子供のためにも、生きていてほしいという思いが強かった。
回復魔法をかけてから数分後、額の汗は完全になくなっていた。その後、母親の額にゆっくりと手を当てる。常温であることから、完全に回復したと思われる。
「これで大丈夫じゃないかな」
「おねえちゃん、ありがとう」
母親はゆっくりと目を覚ます。少女は大粒の涙を流しながら、母親を抱きしめていた。
「おかあさん、おかあさん・・・・・・」
純粋に喜びたい場面だったけど、アカネは現実世界に母親を残してしまった。そのこともあって、悲しさ、切なさがこみ上げることとなった。
「私はどうしていたの?」
母親は倒れたときの記憶が消失している。そんな女性に対して、アカネは事情を簡潔に説明することにした。
「娘さんの話によると、過労で倒れていたみたいです」
「過労・・・・・・・」
「額からたくさんの汗が出ていました。放置していたら、危なかったかもしれません」
「そうだったんですね。迷惑をかけてしまいました」
母親は深々と頭を下げる。
「アカネおねえちゃんが回復魔法をかけてくれたんだよ」
「アカネさん、ありがとうございます」
元気を取り戻したばかりの母親に対して、
「命を大切にしてください。おかあさんがなくなったら、子供はとっても悲しみますよ」
といった。母親はその言葉に対して、神妙な面持ちで頷いていた。
「夫が死亡してからは、子供に我慢をさせてきました。ちょっとくらいは、いい思いをしてほしいんです」
サクラ、ミライのところにおいても、旦那の姿を見かけなかった。家族のために働いたことで、あの世に旅立ったのかもしれない。
「おかあさん、無理をしないで」
「フタバ・・・・・・」
「おとうさんの分まで生きてほしい」
「うん・・・・・・迷惑をかけてごめんね」
感動の場面に付き合いたいところだけど、他にも治療を必要としている人はいる。ここで話を続けるわけにはいかないのである。
「容態は回復しましたか?」
「はい。おかげさまで大丈夫です」
「治療する人がたくさんいるので、私は戻らなくてはなりません」
「アカネさん、ありがとうございました」
二人の姿をちらりと確認したのち、会場に戻っていった。