82章 結婚はお金のためにするのか
仕事を終えたばかりのユラがやってきた。
「アカネ先輩、簡単に稼げる仕事はないですか?」
現実世界で高額な報酬を得ていたために、こちらの収入では物足りないようだ。
最初に思い付いた仕事を紹介することにした。
「ダンジョンに潜ってみる? 結構な金額を稼げるよ」
ダンジョンに潜れば、1回で10憶ゴールドを稼ぐこともできる。贅沢さえしなければ、衣食住に困ることはなくなる。
ユラは食いついてくるかなと思ったけど、反応は芳しいものではなかった。
「命を犠牲にするのは嫌ですよ」
「レベル95で潜ってみたけど、簡単にクリアできたよ」
レベル89と95は大差がない。ユラならクリアできるのではなかろうか。
「無理です。何日間も食べなければ、死んでしまいます」
ダンジョンの探索は1ヵ月以上もかかる。通常の人間では、生き抜くのは不可能である。
「気持ちの悪いモンスターと戦闘するのは嫌です」
ダンジョンには放送禁止レベルの物体が何体もいた。アカネは平気だったものの、人によっては無理という人もいると思われる。
「マツリさんから毒沼、溶岩もあると聞きました。どんなレベルであっても、一瞬であの世に行ってしまいます」
80階くらいから、人間を瞬殺するための仕掛けが増えていた。ダンジョンを絶対にクリアさせないという、鋼の意思を感じられるつくりとなっていた。
アカネは無敵の身体なので、毒沼、溶岩、電流などを問題にしなかった。道路を歩くかのように、スイスイと進むことができた。
「ダンジョンは絶対に無理です。他を紹介してください」
仕事をしたくない女性に、「ギャンブルーレット」を紹介する。勝率は低いものの、大金持ちになれる要素を含んでいる。
「ギャンブルはどう? 手っ取り早くお金を稼げるよ」
ユラの反応は芳しいものではなかった。
「ギャンブルは負けるためにあるんです。絶対に勝てません」
楽をしたいといっているのに、現実思考な部分もあるのか。一筋縄ではいかない性格をしている。
「アカネ先輩、真面目に考えてくれませんか」
仕事ばかりをしていたためか、「セカンドライフの街」に詳しくない。それゆえ、紹介できる場所は少なくなっている。
いいアイデアを探っていると、ユラは現実的な話をした。
「彼氏を作って、養ってもらいたい」
旦那に養ってもらうのは、一つの手段である。仕事をしたくないので、男に養ってもらいたいという女性は一定数存在する。
「今度、お見合いをやりたいと思います」
お金のためだけに男性と結婚する。まっとうな考え方ではあるものの、腑に落ちない部分もあった。10パーセントでいいので、好きという感情がある男と交際したい。
「善は急げです。お見合いをできる場所を探してきます」
ユラは家を出ていく。後ろ姿を見ていると、猪に似ているように思えてしまった。