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「うーん……これは……」

 すっかり綺麗になった廃ホテルの地下。
 いつものように【手紙】の仕分けをしていた。
 いつもと違うのは、チーム配達人が勢揃いしているくらいか。

「……没」
「えっ?!」
「助けてあげないんですか?!」

 【不受理】の箱にはらりと落とすと、非難の声が上がる。
 声の主は、配達人である甥っ子の香月と、最近この活動を手伝うようになった(あまね)夏樹ことなっちゃんだ。
 俺が内容を確認していたのを横から覗き込んでいたらしい。
 まったく、何のために俺が仕分けしてると思ってるんだ。

「やめてよしてそんな目で見ないでっ! おいちゃんが悪者みたいじゃないの!」
「うーん、でも楓、これは俺も放っておけないかな」

 あら、(かなめ)までそっち側ですか。そうですか。
 ルナまでジト目で見てくるし。
 これはこの後の食事会が気まずくなるパターン。

「だ~ってさぁ? これ、手紙(・・)じゃないじゃん? 誰に何を届けろってのよ?」

 うん、俺だってアレよ?
 子供が苦しんでるのは見たくないし、何とかしてやりたいとは思う。
 けどさ。これじゃ、誰が何をどうして欲しいのかわかりゃしない。

「じゃあ、俺が依頼(・・)するよ」
「さすが要さん!」
「ありがとう、父さん!」

 いったん【不受理】の箱に入れたその紙束を拾いあげて、ひらひらとさせていると要に取り上げられた。
 子供たちはキラキラとした目で要を見上げてるし。
 おいちゃん、ちょーっと面白くないですよー。

「それで? 依頼にするってことは、何か作戦があるわけ?」
「ん? ないよ? だって今回俺は依頼者だもの。考えるのは任せる」

 ズコーッ。
 意地悪半分、期待半分で聞いてみたら、悪びれもせずにそんな答えを返してきやがった。
 まぁ、それが本気の言葉じゃないのは、悪戯が成功したようなしたり顔でわかる。
 こういう時、俺とこいつが双子だって実感するよ。

「まぁ、冗談は置いといて」

 要は俺から取り上げた紙束を、最近ここに設置したコピー機にかける。
 そして、同じく置いてある机の引き出しから未使用の封筒を取り出し、コピーをそれに入れた。
 手紙の体裁を整えたそれを、要は俺に寄越してくる。

「じゃあ、よろしく」
「はいはい。で、これは誰に届ければいいわけ?」

 聞いてる間にも、要は更にコピーしたそれを別の封筒に入れる。
 これで、同じ手紙が3通。3通?
 原紙は何故か不受理の箱に戻し、複製した2通を要が自分の鞄にしまう。
 香月もなっちゃんも、要の行動の意図が読めず首を傾げてじっと説明を待っている。

「そっちは良いのか?」

 俺が聞いたのはもちろん原紙の方だ。
 珍しくコピーを取ってまで同じ手紙を複製したってことは、何か考えがあるのだろう。
 既に渡す相手すら決めていそうだ。

「ところで、この作文(・・)は誰がここに置いたと思う?」

 俺の質問には答えず、要が質問で返す。
 そう、作文(・・)
 俺が手紙ではないと断じたそれは、『私の家族』と題された文章だった。
 一度丸めかけたのか、皺が寄ったそれを丁寧に伸ばした跡がある。
 4つ折りに畳まれた、400字詰めの原稿用紙。

「誰って、書いた本人じゃないのか?」
「本人なら、一度丸めた物をわざわざ伸ばしますかね?」

 俺の考えを否定したのはなっちゃん。
 自分が【配達人】に頼るために手紙を書いた時は、何度も書き直したという。
 要は何を考えているのか、いまいち読めない微笑を浮かべたままだ。

「あ、学校の先生だ」
「こぉら、香月。勝手に読まない(・・・・)って約束したよな?」
「あ、ご、ごめん楓。つい」

 いつの間にか原紙に触れていた香月が、わかった、と声に出す。
 サイコメトリーはダメージを喰らうことが多いから、香月が触れないようにしてるってのに。
 これじゃ仕分けの意味がないじゃねぇか。
 叱ると、ペロ、と舌先を出して口先だけの謝罪をする香月。
 全然悪いと思ってない様子でも腹が立たないのは、可愛い甥っ子だからだろうな。

「で? 何が見えたって?」
「えっと、セーラー服の女の子。みんな大っ嫌いって感じと、この作文を渡してすぐ走っていくのが見えたよ。それと、ごめんなさいって、泣きたいの我慢してる感じがした」
「ごめんなさい、ねぇ……何したんだか」

 香月が物から読み取れるのは、それに籠められた強い思いだ。
 憎しみと後悔、読み取れたのはどちらも負の感情だが、香月は案外ケロっとしている。
 自分のことのように追体験するって聞いているから、香月が傷ついていない様子にホッとする。

「えっと、それでね。この作文、書いた子から別の人に渡ってるでしょ? なら、これをここに置けたのは先生かなって」
「さすが香月。名推理だね」
「えへへへ」

 要に褒められて、香月が嬉しそうに笑う。
 要が答え合わせとばかりに、説明する。

「この原稿用紙を置いたのは、学校の先生だと俺も思うよ。何故ここに持ってきたのか、どうしたかったのかは本人に聞かなければわからないけれど。ただ、提出物ってことは、いつかはこれを書いた生徒に返却する必要があると思う。だから、きっとこれを取りに来るんじゃないかな?」
「んじゃ、その時捕まえて事情を聞くか」

 夏樹も香月も、親に捨てられた経験のある子だ。
 悲痛な内容の手紙を、他人事とは思えなかったのだろう。
 そして、要は自分の子供を亡くして以来、苦しむ子どもを放っておけない人間になった。
 知ってしまった以上は助けたい。
 それがここにいる全員の思いだろう。

「よし、じゃあ役割分担決めるぞ」

 誰にどんな仕掛けをするか。
 香月もなっちゃんもアイデアを出しながら、計画を練り上げた。

 さて、チーム配達人、出動だ!



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