74章 トークタイム
「ミライさん、ペットショップの運営状態はどうなの?」
「寄付金が配布されるようになってから、売り上げがよくなりました」
霧切の状態から解放されたことで、ペットショップに使えるお金が増えたのかな。付与金は住民の生活を変化させた。
「赤字が大幅に縮小したので、店を続けていけると思います」
住民の生活が裕福になれば、黒字化もありえるのではなかろうか。ミライの表情を見ていると、そのように感じられた。
「アカネさんが寄付をしてくれたおかげで、500万ゴールドをもらえました。そのお金については、過去の赤字の穴埋めに使いました」
500万ゴールドをもらったとしても、赤字の穴埋めに全てが消える。ミライの生活に光が灯るのは、先のことなのかもしれない。
ミライは話の内容をがらりと変えた。
「母がお見合いをセッティングしたので、相手と会ってみました」
母の義理を立てて、一度だけ会ってみた。彼女の顔は、そのように主張していた。
「好みの相手ではなかったので、一度きりで終了としました。今後は会うことはないでしょう」
好きだと思えない人とお見合い、結婚をするメリットは皆無だ。ミライの判断は正しいのではなかろうか。
「ミライさんはどんな男性が好きなの」
「ペットをこよなく愛することができる男性です。二人でペットのことを語り合いたいです」
ペット好きを絶対条件とするのは、ミライらしさを感じさせた。
「アカネさんは恋愛しないんですか?」
「私はするつもりはないかな。どんな相手が来たとしても、お金目当てであると感じてしまうから」
「アカネさんと同じ立場だったら、そのように考えるかもしれませんね」
収入が一定以上になると、純粋な恋愛は難しくなる。大金を所持していることの、数少ない欠点となる。
お腹はすいていないものの、人間としての食欲が発動している。アカネは自分の気持ちに素直になることにした。
「ミライさん、一緒に食事しよう」
「ありがとうございます」
何も食べないことを想定して、冷蔵庫の中を空っぽにしておいた。それゆえ、食べ物は何も入っていなかった。
「冷蔵庫には何もないから、これから買い出しに行こう。ミライさん、何を食べたい?」
ミライは顎に手を当てながら、何を食べたいのかを考えていた。
「パン、スープ、デザートを食べたいです」
「職人セカンドパン+++++、フォアグラスープ+++++、パイナップル+++++、みかん+++++、桃+++++などにしようか」
ミライは苦笑いを浮かべる。
「アカネさんは最高級の食事ばかりですね。私は一般的なものでいいですよ」
「食べ物くらいしかお金を使うところがないからね」
1兆ゴールド以上を所持しているものの、お金を使うところは多くない。使える場所があるとするなら、家の立て直しくらいかな。
「セカンド牛+++++を食べようよ」
「いいんですか?」
「うん、いいよ」
「それなら、セカンド牛+++++を食べてみたいです」
「セカンド牛+++++」には依存性がある。一度でも食べてしまったら、次も食べたい、次も食べたいと思ってしまう。
「二週間ぶりの食事だから、お金を使いまくるよ」
ミライは二週間ぶりの食事という部分に反応する。
「一四日間、何も食べていなかったんですか?」
「うん。何も食べていないよ」
「水分補給はどうなんですか?」
「水も飲んでいないよ」
「身体は問題ないんですか?」
「いつもどおりかな」
身体の異常はどこからも感じられなかった。
「ご飯を食べていないだけでなく、睡眠もとっていなかったんだ」
先ほどの睡眠は340時間ぶりである。水中探索のときには及ばないものの、長時間にわたって起き続けていたことになる。
「300時間以上にわたって、起き続けていたんですか?」
「うん」
「眠くないんですか?」
「うん。ピンピンとしているよ」
水中探索のときは、720時間くらい起き続けていた。それに比べれば、300時間は大した時間ではない。
「アカネさんのような、身体を手に入れてみたいです」
この身体があったなら、死ぬことはなかった。「セカンドライフの街」ではなく、現実世界で無尽蔵のスタミナを入手したかった。