伝説の魔法使いの霍乱 その1
……なんといいますか……
マルンがいきなり連れてきた新たな10名の神界の皆様ですが……さすがにこれは丁重にお帰り願った次第です。
いえね
メイデンに任せれば、おそらくそれなりの成果をあげてくれるとは思うんです。
実際、メイデンも
「私が躾を実施させていただけばよろしいのでしょう?」
そう言って、その顔に笑顔を浮かべていたんですが……いえ、笑顔と言いながらもその背後からすさまじい負のオーラが吹き出していましたので、背筋がぞっとしてしまったんですけどね。
ただ、思ったわけです。
ここでこの10人にメイデンの研修を実施してですね、この10人が改心したとします。
すると、神界の皆さんはどう考えるでしょう?
『あのコンビニおもてなしというお店の研修はすごい。また問題のある使い魔を改心させた』
そう考えるのではないでしょうか?そして、
『ならば、あいつやこいつやそいつや……』
そんな事をあわせて考え始めるのではないでしょうか……
で、ですね……そのことをブリリアンとメイデンとも話し合った結果。
『申し訳ありませんが、これ以上は……』
と、して、お断りさせてもらったわけです、はい。
幸い、この話しを持って来たマルンも
「やっぱりそうですよねぇ、あは、あはは」
と、笑いながら全員を連れ帰ってくれましたので、僕としても助かった次第です。
神界の皆さんに恩を売るのも手かもとは思いますが、うちはコンビニですからね。
今夏は本業の方を優先したわけです。
◇◇
そんなことがあったコンビニおもてなしですが、今日も元気に営業しています。
僕が勤務していますコンビニおもてなし本店の朝は早いです。
夜明け前には厨房にみんな集合しています。
弁当の作成とヤルメキススイーツの作成を行うためです、はい。
ここ本店で、コンビニおもてなし全店で販売するお弁当の大半とヤルメキススイーツの全てを作成していますからね、責任重大です。
ちなみに、以前本店で作成していたパンやサンドイッチは、今はナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店東店の地下で作成しています。
元々本店の厨房が手狭だったものですから、ナカンコンベにコンビニおもてなし5号店東店……当時はナカンコンベに1店しかありませんでしたので、ただの5号店だったのですが、その地下にパン工房を作成して、そこでパンとサンドイッチの作成をしてもらうようにした次第なんです。
もともと本店でパンを作成していたテンテンコウ♂が、この5号店でも中心になってパン作成をしてくれていまして、そこで作成されたパンを一度コンビニおもてなし本店に持って来てもらって、そこでコンビニおもてなし全店に配布している次第です。
ちなみに、ナカンコンベにはコンビニおもてなしと提携していて、食材などを優先的に卸売りさせてもらっている食堂ピアーグがあるのですが、ここでコンビニおもてなし5号店のお弁当の作成してもらっています。
主にコンビニおもてなし5号店の東西支店で弁当が不足した際の追加分の対応をお願いしているわけです、はい。
ナカンコンベは、コンビニおもてなしの本支店並びに出張所が出店している各都市の中でも群を抜いて人口が多いですからね。
東店に続いて西店を開店して2店舗体制になったにも関わらず、既存の東店の売り上げは下がるどころか今も右肩上がりで上がり続けていますし、新たに開店した西店も予想をはるかに上回る売り上げを記録し続けている次第です。
それだけに、一番の売れ筋である弁当類やパン類が売り切れになる頻度がすごいんです。
で
そうなった際に迅速に対応出来るように、と、考案した策だったわけです。
迅速に商品を輸送出来るように、僕が元いた世界で購入していた電動バイク、
『コンビニおもてなしくん1号・2号』
を、5号店の東西各支店に配備しています。
このバイクに各支店の店員がのって、ピアーグに弁当の追加作成を依頼しにいったり、出来上がった弁当を回収しにいったりしているのですが、ただでさえこの世界では珍しい電動バイクなもんですから目立つことこの上ありません。街中での注目度も相変わらず抜群です。おかげで、コンビニおもてなしのいい宣伝にもなっているんです。
ちなみに東店には、電気自動車おもてなし2号も配備されています。
以前はナカンコンベ近くにありますフク集落へ出向いていってコンビニおもてなしの移動販売を実施していたのですが、最近はその移動範囲を広めてですね、ナカンコンベ周囲に点在している亜人種族の皆さんの集落を週1のペースで巡回しているんです。
この作業は、おもてなし商会ナカンコンベ店のファラさんが引き受けてくださっています。
ファラさんの元で働いているピラミと2人して電気自動車おもてなし2号で出発していく姿を何度か見送った事があるのですが、ファラさんもピラミも本当に楽しそうに出発していくんです。
血のつながりはない2人ですが、今では本当の親子みたいな関係になっているファラさんとピラミ。
この調子で頑張ってほしいな、と、思っている次第です。
◇◇
そんな感じで、ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店東西両店は、周囲のあれこれも含めて絶好調な感じです。
なので、本店も負けずに頑張っていかないといけません。
僕は気合いを入れて厨房で作業を開始しました。
いつもですと、僕の横では魔王ビナスさんがでっかい中華鍋を振り回しながらすごい勢いでお弁当を作成しているのですが、今はその姿はありません。
2人目のお子さんを妊娠なさったもんですから現在絶賛産休中なんです。
で
その代わりといたしまして、僕のとなりには2人の女性の姿があります。
ラテスさんとヨーコさんです。
2人ともコンビニおもてなし本店があります辺境都市ガタコンベの北にあるオトの街から、スアの作った転移度を通って手伝いに来てくれているんです。
さすがに、魔王ビナスさんほどの勢いでの調理は出来ません……っていうか、あれは魔王ビナスさんが常人離れし過ぎていただけなんですけどね。
ですが、2人とも料理上手ですし、以前にも何度かお手伝いをしてもらったことがあるもんですから手慣れた感じで手際よく作業をこなしてくれています。
「ラテスさんも、ヨーコさんも本当に助かります」
フライパンを振るいながら僕がお礼を言いますと、
「いえいえ、私も楽しく作業させてもらっていますので」
と、ラテスさん
「えぇ、私もですわ」
と、ヨーコさん
2人とも笑顔で答えてくださった次第です。
ホント、頼りになる2人なわけです、はい。
2人のおかげで、今日もいつもの予定の時間までに全本支店お呼び出張所へ配布する弁当を作成することが出来まして、それを魔法袋へ分けて収納することが出来ました。
予定の時間になりますと、
「さ、今日もちゃちゃっとお仕事しちゃうわよ」
そう言いながら、ハニワ馬のヴィヴィランテスが姿を現しました。
このヴィヴィランテスが、コンビニおもてなし各本支店に、弁当などの商品が詰まった魔法袋を配布してくれるんです。
僕が元いた世界でいうところの配送トラック代わりとでもいいますか……
「さて、じゃ、言ってくるわね」
「ヴィヴィランテス、いつもありがとうね」
「ふん。ホントにハニワ馬使いが荒いんだから……でもまぁ、これくらいなら大したことないからもっと頼ってもいいんだからね!」
いつものように、ツンデレ発言をしながら転移ドアの前へ移動していったヴィヴィランテスなですが、
「……あら?」
なんでしょう? 転移ドアの前で止まっています。
「……おかしいわね……転移ドアがつながってないわ」
「え?」
ヴィヴィランテスの言葉に、僕は思わず目を丸くしてしまいました。