伝説の魔法使いの霍乱 その2
「ちょっとどうなってんのよ!」
そんな声をあげながら、コンビニおもてなし本店に駆け込んできたのはテリブルアでした。
おもてなし診療所で医者をしながらスア製の薬を処方してくれているテリブルアです。
今でこそ少女のような姿をしているテリブルアですが、その正体は暗黒大魔導士のダマリナッセ・ザ・テリブルアというすごい魔法使いといいますか、暗黒大魔導士なんです。
以前、この世界を支配しようとして大暴れしたことがあったんですけど、そのバツとしてスアに魔法の能力を制限されていまして、そのせいで少女の姿になっているテリブルアなわけです。
が
そんな、少女の姿のはずのテリブルアがですね、ボンキュボンな本来のお姉様の姿で本店に駆け込んできたんです。
「え? て、テリブルア?」
「そうよ、テリブルアよ。こんな美人でナイスバディなお姉さんが他にいるわけないでしょう?」
僕の言葉に、テリブルアは軽口を叩いているのですが
「そんなことより、これ、どういうこと?」
そう言うと、テリブルアは右手を前にかざしました。
すると
その手の先に、魔法陣が展開していったのですが……その魔法陣がすぐにかき消えていくのです。
「え? ど、どういうこと?」
その症状を前にして、僕は思わず目を丸くしました。
いや……何が起きたのかさっぱりわかりません。
ただ、
転移ドアが使用不能になっていて
テリブルアにかけられて封印魔法が無効になっていて
そのテリブルアの魔法がかき消えている
この3つの事態は把握出来ました。
で
ここで僕は、この3つに関する共通点を考えていきました。
ここまで異常な事が連続して起きているとなりますと……何か、原因が絶対にあるはずです。
そんな事を考えながら思案し続けていると……
「パパ! 大変です!」
そんな声を上げながらパラナミオが本店に駆け込んできました。
「パラナミオ、どうかしたのかい!?」
「はい! ママやみんなが大変なんです」
パラナミオは、焦った表情をその顔に浮かべながら、僕の前でわたわた慌てふためいています。
それを受けまして、僕は巨木の家に向かって駆け出していきました。
その時……同時に、ある事が僕の脳裏に浮かんでいました。
転移ドア……
テリブルアの封印魔法……
魔法が使用出来ない……
この3つって、
スアが展開し、維持している転移ドア
スアの封印魔法
この世界最強の伝説の魔法使いであるスア
そう置き換える事が出来なくもないといいますか……そんな共通点に思い当たったと言いますか……
そんなことを考えながら巨木の家の中にありますみんなの寝室へ移動した僕なんですが……
「え?」
そこで僕は固まってしまいました。
僕の視線の先……ベッドの上ではスアが横になっています。
それ事態は珍しいことではありません。
毎晩、夜遅くまで魔法や魔法薬の研究に没頭しているスアは、毎日ややお寝坊さんですから。
問題はその横です……そこにはリョータ・アルト・ムツキの姿があるのですが、いつもの少年少女の姿ではなく、赤ちゃんの姿になっています。
最近の3人は、寝ている間も成長魔法を維持することが出来るようになっていますので、少年少女の姿でないとおかしいのですが……
そして、さらに問題なのはスアの上です。
スアの頭上に、なんか丸くて黒い球状の物体が浮かんでいたんです。
その球状の物体から触手みたいなものがいくつも伸びています。
「うわ!? 魔法風邪ウイルスかよ!?」
それを見たテリブルアは、その球状の物体に向かって右手を伸ばしました。
おそらく魔法でそいつを吹っ飛ばそうとしたのでしょう。
ですが……
そんなテリブルアの腕の先が光り輝いたかと思うと、その光りが一瞬で消え去ったのです。
「ちくしょう……あの魔法風邪ウイルスに吸い取られてる」
テリブルアはそう言うと舌打ちした次第です。
「え? 吸い取られている?」
「あぁ、あの魔法風邪ウイルスはな、風邪とか引いて衰弱した魔法使いの魔力を吸い取って成長するんだよ……どうやら風邪を引いた伝説の魔法使いがあいつに取り憑かれちまったみたいだな」
テリブルアはそう言って舌打ちしていました。
……そうですね
その原因として思い当たる節といいますと……昨夜スアの研究室でいたした後、お互いに裸のまま寝込んでしまい、朝方寒気を感じながら目を覚まし……
「……おいおい、そんな格好で寝てたら、そりゃ風邪も引くわ……」
テリブルアはそう言うと、天を仰ぎました。
「と、とにかくさ、どうしたら良いんだい?」
僕がそう言うと、テリブルアは
「おそらくアイツの本体がこの近くの山かどっかに潜伏しているはずだ。そいつを倒せば……」
そう言いながら、外に駆け出したテリブルア。
僕もその後に続いていきました。
で
その場で僕とテリブルアは目を丸くしました。
……探す必要なんてありませんでした
えぇ……だって、ガタコンベの門の外。
そこにでっかい球状の物体が存在していたんです。
まるで山のように巨大な状態で……
「あぁ……伝説の魔法使いの魔力を吸ったもんだから、こんなに巨大になったってのか」
テリブルアはそう言いながら舌打ちしています。
「じゃあ、こいつがスアの魔力を吸ったもんだから、転移ドアが仕えなくなったり……」
「あぁ、それだけじゃねぇ……近隣で使用されてる魔法の魔力まで吸い取ってやがる、こいつ」
テリブルアがそう言っているのですが……
よく見ると、街道に設置されている魔法灯の灯りも全部消えています。
魔法灯は、魔石の魔力を使用して点灯しているのですが、どうやらこの魔法風邪ウイルスがその魔力まで吸い取っているってことなんでしょう。
「あぁ、だからテリブルアも魔法を使用出来なくなっているんだ」
「そういうことね。アタシが使用した魔法の魔力まで即座に吸収してるってことよ」
舌打ちするテリブルア。
「……じゃあ、どうすれば」
「そりゃあんた……あいつらみたいにするしかないわ」
そう言って魔法風邪ウイルスの本体を指さしたテリブルア。
「……ん?」
なんでしょう……よく見ると、その指の先に何かいます。
あのでっかい魔法風邪ウイルスに向かって攻撃をしかけている何かが……
「うおりゃああああああああでゴザル! なんなんでゴザルかこの化け物はぁ!」
「とにかく、ぶっ飛ばすキ!」
そんな声をあげながら、そのでっかい魔法風邪ウイルス本体に向かっているには、イエロとセーテンでした。
2人が攻撃を仕掛けると、魔法風邪ウイルスの本体の一部が霧散して、なんか消え去っています。
「地道だけど、ああやって少しずつ魔法風邪ウイルスの本体に攻撃を加えて、魔力を引っぺがしていくしかないわ……まぁ、伝説の魔法使いの風邪が治ればすぐにでも消えちゃうはずなんだけど、こんだけでっかくなっちゃってると、それを待っている余裕はなさそうだしね」
そう言うと、テリブルアは手に箒を持ちまして、
「ったくもう、とにかくやってやろうじゃない!」
そう言いながら魔法風邪ウイルスに向かって駆け出していきました。
「パパ、私も行きます!」
そう言うと、パラナミオがその姿をサラマンダーに変化させました。
そうですね、サラマンダー姿のパラナミオが攻撃すれば、一度にたくさんの魔力を引っぺがせますね。
「よし、そうとわかれば僕も」
そう言うと、僕もテリブルア同様に箒を手にしてパラナミオの背に乗せてもらいました。
「とにかく、少しでも多くのみんなの力であの魔法風邪ウイルスの周囲を覆っている魔力をひっぺはしていこう」
……しかしあれですね
各地から救援を呼ぼうにも、おそらく定期魔導船も動かないはずです。
あれも魔石で動きますから、魔法風邪ウイルスにその魔力を吸い取られているでしょうから……
……とにかく、今いるみんなで頑張るしか
そう思っていると
グオオオオオオオ!
なんか、魔法風邪ウイルスに向かってすごい炎が浴びせかけられました。
同時に、すごい量の魔力が削り取られていった次第です。
よく見ると、魔法風邪ウイルスの上空をドラゴンが舞っています。
ファラさん?……ではなさそうですね……
そのドラゴンが魔法風邪ウイルスに向かって攻撃を加えているんです。
口から火炎を吐き出して、それで魔法風邪ウイルスの魔力を豪快に吹き飛ばしています。
「どこのどなたか存じませんが、助かります!」
そんな声を上げながら、僕とパラナミオもその魔法風邪ウイルスに向かって突進していきました。