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忘れたころの神界出張所 その3

 メイデンのおかげで、アーストロアとゴーストロアがブリリアンの研修をまともに受けるようになって数日。

 元々筋金入りのニート気質と申しますか、どの女神様に仕えても駄目だしされていた2人だけに、研修が長時間に及ぶと

「……あ~、だるくなってきた」
「……あ~、たりぃ」

 そんな言葉をぼそっと口にすることが増えてきます。

 で

 その度に、メイデンが
「何かおっしゃいましたか?」
 満面の笑みでそう言いながら2人を睨み付けていくんです。

 その度に、その背からすさまじい絶望のオーラを発するもんですから、レジ作業をしている僕がびっくりしてしまうこともしばしばなんですが……

 で、まぁ、その度にアーストロアとゴーストロアは

「すすすすんません!」
「ちょっとたるんでましたぁ!」

 ビシッと気をつけし直して、改めてブリリアンの研修に身を入れています。

 ちなみに……
 この2人と一緒にウルムナギ又5人娘も研修を受け続けています。

 この5人は、

「おまかせください!」
「今日こそ」
「研修を完璧」
「に」
「こなしてみせます!」

 気合い満々の様子でそう言いながら5人一組でポージングをしているのですが……なかなか結果がともなわない次第でして……

 最近になってこの5人の研修を魔王ビナスさんから引き継いだブリリアン曰く、

「鳥系亜人ですね」
「鳥系亜人? いや、この5人はウルムナギ……」
「あ、いえ、頭の中の構造が鳥系亜人という意味でして」
「え?……それってあれ? 3歩歩いたら全部忘れてしまうとかいう……」
「そこまでひどいとはいいませんが、かなり近い状態ではありますね」
 そう言って、ブリリアンもため息をついていた次第です。

 あ、でも、鳥系亜人の皆様の名誉のために言っておきますが、全ての鳥系亜人の皆様がそうというわけじゃありませんからね。
 事実、コンビニおもてなしで働いています鳥系亜人のチュンチュやツメバなんかは普通にお仕事出来ていますから。
 確か、ハーピー種や蝙蝠種にそういった特性を持った人が多いって聞いたことが無きにしも非ずです、はい。

 そんなウルムナギ又5人娘の研修も同時進行しつつ、神界支店のバイト候補のアーストロアとゴーストロアをどうにか働けるレベルに引き上げないといけないわけです。
 マルンの希望によりまして
「1日でも早く!」

「……これはもう、ブリリアン様が言って聞かせるよりも、まずは体に覚え込ませた方が早いかもですわね」
 メイデンはそう言うと、右手を前に伸ばしました。
 詠唱すると、そこに転移ドアが出現します。
「へぇ、メイデンも転移魔法を使用出来たんだね」
「私の場合、ブリリアン様のお側に出現するためか、異世界にございます私のプライベートルームへしか行けませんのよ」
 そう言うと、ブリリアンはその転移ドアを開けたのですが……

 一瞬見えたその向こう……

 なんか三角木馬みたいなものや、磔にするための道具や、とげとげのついた鞭や、
(もっとすごい物が色々見えた気がするのですがこれ以上はR15以上になってしまうので割愛いたします)

「さぁ、お2人とも、お入りくださいな」
 満面の笑顔のメイデン。
「いいいいや、あの、その部屋だけはご勘弁」
「ああああの鉄の処女の中の空間じゃないっすか、やだぁ」
 そんなメイデンの前で、アーストロアとゴーストロアは抱き合ってガタガタ震えていました。

 ですが

 そんな2人を蹴り飛ばしながら部屋の中へと移動させたメイデン。
「では、しばらく2人をお預かりいたしますわ」
 メイデンは満面の笑顔でそう言うと、扉をしめました。

「……なぁ、ブリリアン」
「なんでしょう店長殿」
「……あの2人、大丈夫かな?」
「メイデンですので、ギリギリのラインはわきまえているはずです」
 ブリリアンはそう言って力強く頷いてくれたんですけど……ほ、本当に大丈夫なのかなぁ……

◇◇

 そして、4日後。

「色々お世話になりました」
「自分、もう大丈夫です」
 アーストロアとゴーストロアは、そう言いながら腰を90度曲げて挨拶しています。

 その横にはマルンが立っています。
「……どうやってこの2人をここまで研修したんです?」
 マルンは、2人の様子を見ながら素でびっくりしています。

 それもそのはず……

 マルンが転移ドアでこの世界にやってきますと、アーストロアとゴーストロアの2人は
「マルンさんお疲れさまっす」
「マルンさん遠路はるばるご苦労様っす」
 そう言って大きな声で出迎えた次第です。

 このコンビニおもてなしにやってきたばかりの頃の、無気力自堕落やる気ゼロだったアーストロアとゴーストロアの姿はすっかり消え失せていましたからね。

 ……結局、メイデンのプライベートルームにアーストロアとゴーストロアが監禁され……じゃなかった、行っていたのは1日でした。
 ですが、その1日ですっかり態度が改まった2人。

 事前に1回あの部屋を経験していたからでしょうか

「……もう絶対あそこには行きたくないっす」
「……もう少しでいろんな物が崩壊するとこだったっす」

 アーストロアとゴーストロアがそう言いながら青くなってガタガタ震えだした程ですので、前回以上の何かがあの部屋で行われたのは間違いないでしょう。

 ……まぁ、あえてその内容を聞こうとは思いませんが……

 とにもかくにも、その1日のおかげでようやくブリリアンの研修を最初から最後までだらけることなく受けることが出来るようになった2人は、その後の3日の研修で、
「これならもう大丈夫でしょう」
 ブリリアンが太鼓判を押すまでになった次第です。

 まぁあれです。
 この2人はもともと下界から神界に抜擢されるほどの逸材ですからね。
 やれば出来る子なわけです、はい。

 そんなわけで、研修を無事終えた2人を連れてマルンは神界に戻っていきました。
 
 その際に、コンビニおもてなし出張所神界支店をオープンさせるために、大量の商品を仕入れて魔法袋に入れて持ち帰ったのは言うまでもありません。

◇◇

 コンビニおもてなし出張所神界支店は、いわゆるフランチャイズ店です。
 マルンが、コンビニおもてなしの会長である僕から、お店の看板と営業のノウハウ、新人の研修やコンビニおもてなしから仕入れた商品を店で販売する権利などを受け取る代わりに、フランチャイズ料金を毎月支払ってもらうことにしています。
 まぁ、商品の仕入を、ドンタコスゥコ商会が仕入れるのと同じ仕組みにしていますので、その際の代金をもってフランチャイズ料金にあてさせてもらうつもりではいるんですけどね。
 具体的にどういうことかと言いますと、

「はぁい、あなたが新しい卸売り希望者ね?」
 そう言いながら笑顔を浮かべているおもてなし商会のファラさんと値段交渉をして商品を購入してもらうわけです、はい。
 ……断っておきますが、この方法を希望したのはマルンの方ですからね
 まぁ、マルン的には
「値切り飛ばせば大もうけ出来ますね!」
 みたいなことを最初言っていたのですが……なんか、神界に戻っていくマルンの背中が若干すすけていた気がしないでもありませんので、交渉結果は言わずもがなだったんでしょう…… 

◇◇

 そんなこんなで、マルンはアーストロアとゴーストロアを連れ帰って、コンビニおもてなし出張所神界支店を開店させてから2週間……

「店長~!やりました~!」
 マルンが万歳しながら転移ドアをくぐってきました。

 マルンによりますと、コンビニおもてなし出張所神界支店が大盛況なんだそうです。
 アーストロアとゴーストロアがしっかり仕事をこなしてくれている事もあって、神界支店は連日おすなおすなの大賑わいなんだとか。

「相乗効果でヤルメキススイーツのお店も大盛況でして、購入量を増やさせていただきたく……」
 そう言ってマルンはにっこり笑っていました。

 ……ですが

 今の僕にはそんなマルン以上に気になっていることがありました。

「……あのさ、マルン……その後ろの人達は……誰?」
 僕がそう言って指さした先には、10人ほどの男女の姿がありました。
 全員背に羽を持っていますので、神界の使い魔で間違いないみたいです。

 ……ですが

 その10人は全員ヤンキー座りをしています。
 ガムらしきものをくちゃくちゃ噛みながら僕にむかってガンを飛ばしています、はい……

 そんな一同へ視線を向けている僕にマルンは言いました。
「あ、あの~、実はですね……あの超問題児だったアーストロアとゴーストロアをあそこまで改心させ、仕事が出来るまでに仕上げたコンビニおもてなしさんの手腕を神界の皆様が大変好評化なさいましてですね……新たにこの10人にも研修を施していただけないかって……」
 
 そんなマルンの言葉を聞いた僕は言いました。
「……謹んでお断りさせていただきます」

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