忘れたころの神界出張所 その1
コンビニおもてなしは、順調に営業を続けています。
本支店が順調なのに加えまして、最近は出張所の展開にも力を入れています。
コンビニおもてなし出張所は、現時点では支店を出店するほどではないけれど、コンビニおもてなしの出店要望が多いといった場所に設置しています。
基本的に新店舗は建設しないで、既存の別店舗の一部を間借りして営業するスタイルです、
そのため、売り場面積がどこも狭いもんですから、販売する品目をかなり絞っている次第です。
現在は、
テトテ集落
ティーケー海岸
定期魔道船内
この3箇所で営業しているコンビニおもてなし出張所。
テトテ集落とティーケー海岸の出張所は、どちらもおもてなし商会の店舗の一部を間借りして営業しています。
もっとも、テトテ集落出張所の方は利用者が増大したもんですから先日店舗の拡充を始めたりしていまして、近い将来には支店化することも考慮しておいた方がいいかもしれません。
ティーケー海岸出張所の方は、ファラさんの遠縁にあたるファニーさんがおもてなし商会ティーケー海岸店と合わせて担当してくれています。
このファニーさん、結構長身なファラさんのさらに1.5倍はあるくらいの長身さんなんですよね。
まさに歩く巨人といいますか……まぁ、すごく細いので威圧感はそこまでないのですが……
ただ、このファニーさん……
「ふぅ……だるいわね」
「ふぇ……めんどくさいわね」
といった言葉が口癖なところでおわかりいただけると思うのですが……とにかくやる気がありません。
算術が得意なので、計算はばっちりなんですが……基本、椅子に座って日がな一日、本を読みふけっているんです。
まぁ、それでもお客さんがこられると対応はしてくれているんですけどね。
その勤務態度を、時折視察に出向いたファラさんに見とがめられまして、
「あんたまたサボってるわね!」
「ちょ……ファラおばさん、なんもそう青筋たてんでも……」
そんな言葉を交わしながら、互いに龍化して怪獣大戦争をおっぱじめてしまうこともしばしばなんだとか……
まぁ、そんなファニーさんなので、もしここを支店化した場合、ファニーさんがおもてなし商会と支店の両方を仕切れるとはちょっと思えませんし……それに今の頻度で怪獣大戦争をおっぱじめられてしまいますと、お店の補修費もちょっと馬鹿にならないといいますか……そんな諸事情によりまして、ここティーケー海岸出張所は支店化の目処がたっておりません。
……ティーケー海岸の大手商店であるアルリズドグ商会の会長アルリズドグさんからは
『なぁ、支店をつくってくれよ。もちっと品揃えを増やしてほしいんだ』
と、よく言われてはいるんですけどね。
定期魔道船の中で営業している出張所は、定期魔道船の乗客の皆様に、ちょっとした飲み物や食べ物を提供するために営業しています。
パラナミオサイダーやスアビールに加えて、サンドイッチやお弁当などを中心にラインナップしていまして、毎日好調な売れ行きです。
定期魔道船内で営業しているため、支店化はまず不可能なんですけど、まぁ、ここは現状維持で問題ないでしょう。
新たなコンビニおもてなしの店舗展開を検討するために各地を回ってくれていたブリリアンによりますと
「出張所を展開するのに適した街をいくつか見つけています」
とのことらしいので、魔王ビナスさんが産休育休から復帰して、ブリリアンがコンビニおもてなし本店臨時副店長業務から開放されたときに、改めて検討したいと思っています。
◇◇
そんな中……
「いやぁ、店長さん、お待たせしましたぁ」
そう言いながら、マルンさんが本店にやってきました。
神界で「ヤルメキススイーツのお店」を経営しているマルンです。
元々神界で「血の盟約の執行管理人」並びに「神界の使い」としてのお役所仕事をこなされていたマルンさんなんですが、コンビニおもてなしのヤルメキススイーツにドはまりしてしまいまして、それが高じて神界のお役所仕事を辞め、神界にヤルメキススイーツのお店を開店するに至った次第なんですよね。
まぁ、コンビニおもてなしからヤルメキススイーツを仕入れまして、それを神界で販売しているだけなんですけど、このお店、かなり好評らしいんです。
なんでも、神界のスイーツと言うと、果物そのまんまというのが主流らしくて、ヤルメキススイーツのように凝ったつくりのスイーツが存在していないんだとか。
そのせいで
「売れ残ったスイーツはスタッフが美味しく頂きました……ってするはずだったのに、全然売れ残らないのよ」
と、仕入れにやってきたマルンがいつも泣き笑いしているほどなんです。
で、そんなマルンが今日も転移ドアをくぐってやってきたわけです。
……あれ?
「……マルン、よく考えたら今日はヤルメキススイーツの仕入れの日じゃないよね?」
「えぇ、そうですよ」
僕の言葉に、笑顔で頷くマルン。
「じゃあ、今日は何の用事だい?」
僕が改めてそう言いますと、
「はい、コンビニおもてなし出張所神界支店のバイト希望さんがやっと見つかったんです」
マルンさんは笑顔でそう言われました。
……あ
その言葉を聞いて、僕はやっと思い出しました。
そうでした……コンビニおもてなし出張所……もう一箇所ありました……
神界でマルンが営業しているヤルメキススイーツの店舗の2階。
そこにコンビニおもてなし出張所神界店があるんです。
……ただ、このお店、今は営業していません。
いえね、マルンが神界で
『アルバイト募集』
の張り紙を出してはいるんですけど、なっかなか応募がなかったんです。
そのせいで、僕が臨時で店員をしたことがあったんですけど……いやぁ、あのときはとんでもないことになりました……
神界は、基本的に他の世界の人間が入りこんではいけない世界なんです。
なので、当然僕は入れないんです……はいっちゃいけないんです。
なのに、出張所を一日でも早く開店したかったマルンに無理矢理つれていかれたんですよ。
その結果
神界の警察の人に見つかって、僕は危うく逮捕されるとこだったわけです、はい……
そのせいで、マルンには
「神界でアルバイト希望者が見つかるまで出張所は封鎖します。絶対に再開させませんからね」
そう伝えていたんです。
で
どうやら、その出張所のアルバイト希望者が現れたってことなんでしょう。
見ていると、マルンの後方から2人の女の子が現れました。
子供のような容姿ですけど……神界の人は見た目と実年齢がかけ離れているケースが多いですし、おそらくこの2人もそんな感じなんでしょうね。
背に純白の天使を思わせる羽が生えていますので、神界人に間違いないと思われます。
「この2人をね、出張所で働かせたいと思ってるの。と、いうわけで研修を受けさせてもらえちゃったりするかな?」
マルンは、2人の肩を叩きながら満面の笑顔です。
が
「……さわんなよおばさん」
「……うざいのよおばさん」
ん?
今、その2人……妙にドスの効いた声をマルンに向けなかった?
「あ、あぁ、ごめんねごめんね。おばちゃんちょぉっとなれなれしかったかしら?あは、あはは……」
マルンも、妙によそよそしい笑顔を浮かべながら、2人の前で何度も頭を下げています。
「……人が足りないっていうから、仕方なく雇われてあげるんだからね」
「……そこんとこ、しっかり理解してよね」
「はいはいはい、そりゃあもう重々理解しております、はい」
2人は、みるからに不機嫌そうな様子です。
で、マルンはそんな2人のご機嫌を必死にとっている感じ……
なんでしょう……なんか、厄介事の予感しかしないんですが……