パルマ生誕祭ケーキだってば その3
「店長さん、来たよ~」
コンビニおもてなし本店。
ちょうど営業時間終了時刻と同時に、ラテスさんが満面の笑顔とともに転移ドアをくぐってやってきました。
クリスマスケーキならぬパルマ生誕祭ケーキの製作のお手伝いをお願いして数日。
今日は、その1回目の打ち合わせを行うことになっていたんです。
実は、あの後ラテスさんの方から提案がありまして……
「もしよかったらですね、私達が作っているスイーツをコンビニおもてなしさんで扱ってもらえないかなぁ、と、思ったりなんかしちゃってるんですけど……どうでしょう?」
なんでもラテスさん、オトの街で切り盛りなさっている食堂の中に陳列棚を作ってそこでスイーツ販売も行っているそうなんです。
それが街の子供達やママさんに好評だそうでして、それで今回、この話を僕に持って来たそうでして。
「そういうことなら、一度お店でお話しましょう」
そんなわけで、今日はパルマ生誕祭ケーキの打ち合わせの前にそっちの打ち合わせをすることにしていたんdす。
ラテスさんが、蛇の下半身を器用に動かしながら厨房へと移動していきます、
で
そのラテスさんに続いて
「店長さんお久しぶり、お手伝いに来たわ」
小柄な女の子が笑顔で手を振っています。
ポンチョみたいな服を着ているその女の子。
「やぁ、テマリコッタちゃん、今日はよろしくね」
僕は、その女の子に笑顔で手を振り替えしました。
その後方からもう1人、
「お久しぶりです。今日はよろしくお願いいたします」
人の姿なんですが、狐の特徴が強く出ているその女性、
「やぁ、ヨーコさんもお久しぶりです」
その女性~ヨーコさんに僕は笑顔で頭をさげました。
ヨーコさんは、ラテスさんの親友でして、オトの街の近くの家で、テマリコッタちゃんとそのおじいさんと一緒に暮らしているそうなんですよね。
厨房へ移動すると、
「これが私達がお店で販売しているスイーツなんですけど……」
ラテスさんが、持参してこられた大きな箱を開けて、その中身を机の上に並べていきました。
そこに並んでいたのは、ロールケーキでした。
ラテスさんがご持参くださったロールケーキはいろんな種類がありました。
チョコ
抹茶
イチゴ
黒いのは……ひょっとして竹炭でしょうか?
そのロールケーキが1本丸々、どんどんどんと並べられているんです。
「ヨーコさんの発案でね、あれこれ色々作っているの」
ラテスさんは、胸をはってドヤ顔をしながらヨーコさんへ右手を向けています。
「そうなのよ! ヨーコさんはすごいんだから!」
その横で、テマリコッタちゃんまでもがドヤ顔をしながらヨーコさんへ腕を向けています。
その2人の前で、ヨーコさんは
「ちょ、ちょっと二人とも大げさよ」
そう言いながら苦笑しています。
その光景を見るだけで、この3人がすごく仲良しなんだなっていうのがわかります。
きっと、このロールケーキを作成するときも、3人で和気藹々と楽しそうにやっているんだろうな……その姿が、簡単に想像出来ちゃいますからね。
「ちょっと待ってね、私が切り分けてあげるわ」
テマリコッタちゃんが、丁寧にそれを切り分けてくれまして、数種類のロールケーキが乗ったお皿を
「はい、店長さん、しっかり味わってね」
笑顔でそう言いながら手渡してくれました。
「ありがとう、テマリコッタちゃん。じゃあ早速頂くよ」
そう言いながら、僕はロールケーキを口にしていきま……
って
ろ、ロールケーキを口に入れようとしている僕を、
ラテスさん
ヨーコさん
テマリコッタ
3人が身を乗り出して、食い入るようにして見ているではありませんか……
「ちょ、ちょっとそれじゃあ食べにくいかな」
苦笑する僕。
「あ、す、すいません」
「つ、つい緊張しちゃって……」
そんな僕の言葉を受けて、3人は椅子に座り直してくれました。
では、改めて……
それを口に運んでいく僕。
……しばらく口の中でモグモグしていったんですけど
「うん、これは美味しいですね」
そう言って大きく頷きました。
「やったぁ!」
「さすがヨーコさんね!」
「みんなで頑張ったおかげね」
その途端に、3人が手を合わせながら喜び始めた次第です。
いや、でも、このロールケーキは本当に美味しいです。
ヤルメキススイーツとして販売しているロールケーキも美味しいのですが、これはそれよりも少し上をいってますね。
これは、このロールケーキをメインで作成しているヨーコさんの技量がすごいってことなのかもしれません。
ここで、僕はパラナミオ達を呼びました。
子供達にもこのロールケーキを味わってもらおうと思ったわけです。
「わぁ! テマリコッタちゃん久しぶりです!」
「パラナミオちゃん久しぶり!会いたかったわ!」
何度か一緒に遊んだことがあるパラナミオとテマリコッタちゃんが手を取り合って喜び合っています。
他のみんなとも挨拶を交わしあった後に、このロールケーキを食べてもらったところ、
「テマリコッタちゃん、これすごく美味しいです!」
「リョータもそう思います!」
「美味しいですけど、アルトは大福の方が……」
「ムツキはこれが大好きにゃしぃ」
「アルカも美味しいと思うアル……でもごま団子の方が……」
一部に、個人的趣向による意見が混じってはいたものの、これが美味しいということは満場一致だった次第です。
それを受けまして、僕が
「じゃあ、まずは試験販売をさせてもらって、その売り上げをみながら取り扱い量を増やさせてもらう感じにさせてもらっていいかな?」
そう申し出たところ。
「はいはいぜひぜひお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「店長さん、しっかり売ってね」
ラテスさん・ヨーコさん・テマリコッタちゃんの3人は、笑顔でそう言ってくれました。
と、言うわけで、コンビニおもてなしで新たに
『オトの街のロールケーキ <仮称> 』
を商品化することを決めた次第です。
◇◇
その後、テマリコッタちゃんには、パラナミオ達と巨木の家に行ってもらって、みんなで一緒に遊んでもらうことにしまして、
「じゃあ、パルマ生誕祭ケーキのことなんですけど……」
そう言って、パルマ生誕祭ケーキの打ち合わせをしていきました。
2人とも、
「はい、ぜひお手伝いさせてください」
「私もケーキ作りは大好きですので」
そう言って、パルマ生誕祭ケーキ作りの助っ人を了承してくれました。
昨日のうちに、パルマ生誕祭ケーキの基本的な種類と、その作り方をレシピにまとめておいたので、その紙を2人に手渡しました。
ただ、その製法が僕が元いた世界の言葉を多く駆使して書いていたもんですから、
「えっと、これ、どういう意味???」
ラテスさんが時折首をひねっていました。
ただ、僕がその解説をしようとすると
「あぁ、それはね……」
といって、ヨーコさんが全部解説してくれたんですよ。
以前からヨーコさんってすごい博識というか……僕が元いた世界のことまでよく知っているような、いないような……
◇◇
そんなこんなで、予約開始までの間のことを打ち合わせていきました。
ケーキの作成はラテスさんのお店で行ってもらうこと。
事前に、1日何個くらいまで作れるか試しておいてほしいこと。
あ、その試作品はコンビニおもてなしで買い取らせてもらうことも伝えてあります。
そんな話合いをしていきまして、
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ」
「よろしくお願いいたします」
僕は、ラテスさんとヨーコさんと握手を交わしました。
その後、テマリコッタちゃんも戻ってきて、3人はオトの街へと帰っていきました。
テマリコッタちゃんが、ヨーコさんの側にぴったりくっついていたのがとても印象的でしたね。
パラナミオは、そんなテマリコッタちゃんとまた遊ぶ約束をしたそうで
「早くまた会いたいです!」
そう言って笑顔を浮かべていました。
そんなパラナミオに、僕は、
「うん、きっとすぐまた遊べるよ」
そう、笑顔を返しました。
何しろ、これからはロールケーキの納品で、週に3日はラテスさんがきてくることになりましたしね。
ヨーコさんとテマリコッタちゃんも、きっと一緒に来てくれるはずです。