バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

パルマ生誕祭ケーキだってば その2

 コンビニおもてなしで予定している冬のフェア。

 その目玉と言えるのが、クリスマスケーキならぬパルマ生誕祭ケーキです。

 僕の世界では12月24日のクリスマスイブ、25日のクリスマスに向けて予約販売されるクリスマスケーキですが、こちらの世界にはそんな風習はありません。

 ですが、僕の世界の12月にあたる、この世界のトゥエの月の25日は、この世界最大の国家であるパルマ王国が出来た日とのことで、パルマ生誕祭というお祭りだったんですよね。
 そのお祭に合わせて

『パルマ生誕祭は家族みんなでパルマ生誕祭ケーキを』

 といった感じのキャンペーンを去年やってみたところ、これが大成功だったんです。

 ……え~……宣伝ポスターにパラナミオを起用したところ、
「ケーキを買うからそのポスターをくれ!」
「1個につき1枚でぜひ!」
 集落の皆さん全員がパラナミオサポーターとで言っても過言ではなかった当時のテトテ集落の皆さんが、このポスターを入手するためにすごい数のパルマ生誕祭ケーキを御注文くださったのも確かに影響したのですが……そ、それを抜きにしても予想を上回る売り上げを記録した次第です、はい。

 まぁ、相変わらずパラナミオサポーターが多いテトテ集落なのですが、今年は魔法使い集落の皆さんがたくさん嫁入りなさっていますし、去年ほどの狂想曲は起きないんじゃないかなぁ……と、思っているのですが……

◇◇

 そんなわけで、昨年大成功を収めているだけに、今年もなんとしても成功させたいクリスマスフェアならぬパルマ生誕祭フェアなのですが……

 そのケーキ作成の総指揮をとるはずのヤルメキスが目下育休中なわけです。

「そ、そ、そ、その分、私が頑張りますわぁ」
 ヤルメキスの幼なじみで同い年のケロリンが気合いをいれてくれているのですが……ケロリンは、僕の世界でいうところの和系によく似たスイーツを得意にしています。

 そのため、洋系であるケーキの作成をちょっと苦手にしているんですよね……

 アルカちゃんもいますけど、アルカちゃんは中華系を得意にしているため、これまたケーキ作りはいまいち苦手みたいです。

 主に弁当作成をしてくださっている魔王ビナスさんも
「そうですねぇ……私もどちらかと言うとケロリンさんと同じ系統のお料理が得意といいますか……」
 そう言いながら首をひねっていた次第です。

 中には、
「スア様の魔法でちょちょいのちょいってわけにはいかないんですか?」
 なんて意見もあったのですが……

 スアは確かにすごい魔法使いです。
 この世界最強の魔法使いに間違いありません。

 ……なのですが

 そんなスアがですね、魔法で食べ物を作成しようとした場合

『自分でその料理を作成出来る』

 これが大前提になってしまうんだそうです。
 つまりですね、

『スアが自分で作る事が出来る料理しか、魔法で作成出来ない』

 と、言うわけなんです。

 ……で

 スアなんですが……その……ま、魔法は超得意にしているんですが、これが料理になりますとからっきしと申しますか……

「……あんなに器用に魔法薬を作成出来るのに、なんで料理はこんなに駄目なんだろう……」
 僕が思わずそんなことを口にしてしまうほどでして……

「……頑張ってる、の……努力はしてる、の」
 スアも、そう言って僕に理解を求めてきます。
 若干、涙目にもなっています。
「……だから、嫌いにならないで、ね」
「馬鹿だなぁ、そんなことでスアを嫌いになったりするわけないじゃないか」
「……ホント?」
「もちろん」
「……ホントにホント?」
「もちのろんろんだよ」
「……じゃあ」
 そう言って、スアは僕に向かって顔を上げ、目を閉じました。

 愛情確認のためのキスのおねだりです。
 そんなスアに、僕は口づけていきました。

 身長差が50センチ近くありますので、僕はかなり背を曲げないといけません。
 スアも、一生懸命つま先立ちして僕をサポートしてくれています。

 そんな感じで、しばし愛情を確かめ合った僕達でした。

◇◇

 そんなわけで思案を重ねた結果、今年のパルマ生誕祭ケーキをの作成はですね、人海戦術で対処することにしました。

 各支店でですね、料理が得意な店員に集まってもらいまして、みんなでケーキを作ることにした次第です。

 早速僕は、その旨をチラシにしまして各支店に向けて店長回覧していきました。

『パルマ生誕祭ケーキ作成補助員の募集について』
 そう題名されたチラシには、

『今年のパルマ生誕祭ケーキの作成の手伝いをしてくれる店員を募集します』
 との一文に続き、以下の内容を記載しています。

・作成は、コンビニおもてなしの営業時間外に行います。
・作成に従事した時間に応じた時間外手当を支給します。」
・各店の営業に支障が出ないように、各支店からの参加者は最大2名とします。
・2名が同日勤務にならないように、ローテーションを組んで作業に従事してもらいます。

 そんな内容をつらつら箇条書きにしてあります。
 で、2枚目には、参加希望者の氏名と所属支店名を記入する欄が設けてある用紙が添付してあります。

 店長回覧の回覧順に従いまして、僕はこれを2号店の店長であるシルメールに手渡しました。

 ただ、シルメールは、
「この時期はおもてなし酒場も忙しいからなぁ、とにかくみんなで話し合ってみるよ」
 首をひねりながらもそう言ってくれました。
 
 そうなんですよね。
 コンビニおもてなし本店と2号店には、おもてなし酒場が併設されているんです。

 酒場としては規模が小さめのこのおもてなし酒場ですが、コンビニおもてなしでも大人気のスアビールを制限なしに堪能出来る酒場として大人気なんです。

 制限なしとは言いましても、その日に販売する量は決まっていますので、基本早い者勝ちになっています。
 スアビールがなくなったら、以後はタクラ酒をお出しするのですが、

「……あぁ、ここからタクラ酒か」
「……確かに美味いんだけど、スアビールの後だとなぁ」
 
 皆さん、途端に酒の進み具合が遅くなっていくんですよね……

 いえ、いいんですよ。
 そんなタクラ酒ですけど、最近ドンタコスゥコが
「タクラ酒をいっぱい購入してくれる酒場が出来たんですよねぇ、なので、いつもより多めに仕入れさせてもらいますねぇ」
 そう言って、かなりの量のタクラ酒を買い込んでくれたんです。

 こりゃもう、その素晴らしい酒場にいつかお礼を言いに行かないと……心の中でそう誓った僕でした。

 少々話が脱線してしまいましたけど……

 スアビール目当ての皆さんは、寒いのもお構いなしにスアビールを満喫なさいます。
 そんな皆さんが、いわゆる忘年会的な集まりを開かれたりするものですから、その応対のために2号店の店員のみんなは、この時期結構てんてこ舞いなんです。

 ちなみに、本店のおもてなし酒場は、ルアの妹のネプラナが、オトの街から転移ドアで通って来てくれていますし、イエロとセーテンがその脇をがっちり固めて取り仕切ってくれていますので、この3人でどうにかなってる次第です。

「……そうだ、オトの街と言えば……」
 そこで僕はある人の事を思い出しました。

 オトの街には、ルアの幼なじみのラミアのラテスさんがいます。
 彼女は、オトの街で食堂を経営していますし、パン作りが得意なんです。
 で、そのラテスさんなんですが、時々ネプラナと一緒にやってきて酒場を手伝ってくれたりしているんです。

「ひょっとしたら、お願いしたら手伝ってもらえるかもしれないな」
 その事に思い当たった僕は、早速ネプラナさんに会いに行きました。

 本来であれば、ガタコンベからは半月以上かかるオトの街ですが、今はスア製の転移ドアでつながっていますので、一瞬で行き来出来ます。

「……と、言うわけで、ケーキ作りの手伝いを頼めないかと思って」
 そう申し出た僕に、ラテスさんは
「楽しそう! ぜひやらせてください!」
 笑顔で承諾してくれました。
「あ、あと、パン作りが得意なお友達も一緒に行ってもいいですか?」
「えぇ、人手が多いのは大歓迎ですから」

 その後、しばらく雑談を交わしてから、僕はガタコンベへと戻っていきました。

 うん、どうにかいい感じじゃないのかな?

しおり