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秋の終わりのドゴログマ その4

 パラナミオが川で取った魚なんですけど、スアに見てもらったところ
「……食用は、無理」
 とのことでして、パラナミオがシュンとしてしまったんですけど、
「……でも、薬品の材料にはとっても重宝、よ」
 そう言って右手の親指をグッと突き立てるスア。
 
 その姿を前にして、

「やりました! ママのお役にたてました!」
 パラナミオは一転して満面の笑顔を浮かべながら、何度も何度も飛び跳ねていました。
 端から見ていても、思わず笑顔になってしまう……そんな素敵で可愛い笑顔です、はい。

 ……となると、他に何か食材を探さないといけませんね。

 食べ物は現地調達する気満々でしたので、あまり持って来ていないんですよね。

「スアと一緒に、狩りにでも……」
 僕がそんな事を考えていると、近くの森を散策していたアルトとムツキが、何かを持って帰ってきました。

 その手には、兎型の魔獣がかなりの数握られています。
「え? 2人が狩ったのかい?」 
 僕はそう尋ねました。

 いえね。
 見た目は子供、中身は赤ちゃんなアルトとムツキですけど、その魔法能力はかなりのものでして、あれくらいのサイズの魔獣なら魔法で十分狩ることが出来るはずなんですよね。

 そんな僕の一言を前にして、アルトとムツキは
「違うのですわ、お父様」
「おじさんと男の子にもらったにゃしぃ」

 2人の話によりますと、そのお2人はこのドゴログマに修行に来ていたそうでして、その修行の一環としてこの兎型の魔獣を狩っていたそうなのですが
「狩りすぎたから、あげるよ」
 そう言って、その男の子が2人にこれをくれたそうなんです。

「そりゃ、お礼を言わないと……」
 と思って森の中を探してみたのですが、森の中には誰もいませんでした。

 ……よく考えたら、ここ、ドゴログマって神界の下部世界ですので人は住んでいませんし、他の人と出くわすこともまずないはず……

「アルト、ムツキ、その人の名前は聞いたのかい?」
「お聞きする前に立ち去られたのですが……」
「お父さんっぽい人が男の子のことをガリルって呼んでたにゃしぃ」
「……う~ん、とりあえず聞いたことがないなぁ」
 そう言って腕組みした僕。

 そんな中、スアがなんか難しい顔をしていました。
「スア、どうかしたのかい?」
 僕がそう聞くと、スアは
「……すごい魔力を持った人がいた、みたい……」
 そう言いながら腕組みしています。

 スアによりますとアルトとムツキが出会った人達のうち、おじさんと言うかお父さんの方の事らしいです。

「すごい魔力と言っても、スアほどじゃないんだろ?」
 僕は笑顔でそう言いました。

 何しろスアはパルマ世界最高峰の伝説の魔法使いですからね。

 ……ですが

 そんな僕の問いに、スアは考え込んだまま、とうとう最後まで返事をしてくれませんでした。

 ……え?

 ……こ、これって、その人って……スアと同等か、もっとすごい魔法を使える人ってことなの?

 僕がびっくりしていると、スアは
「……大丈夫、私がもっとパワーアップすればいいだけ」
 そう言うが早いか、腰につけている魔法袋の中から何やら魔導書を取り出してですね、いきなり勉強を始めた次第です。

 スアがそこまでしちゃうくらいすごい魔力を持った人って……

 僕も腕組みをして考えてみたんですけど、さっぱり想像が出来ませんでした。
 まぁ、魔法が全く使えない僕がいくら考えても……そりゃ答えなんで出るわけがありませんよね。

◇◇

 スアによりますと、すでにその2人はドゴログマからいなくなっているらしいとのことでしたので、気にすることは辞めることにしました。

 ただ、アルトとムツキが

「あのガリルさんと言われた殿方……とても素敵でいらしたわね」
「うんうん、すごくかっこよかったにゃしぃ」

 そんな感じで、夕飯の際にもぽややんとしていたんですよね。

 そんな中、
「アルカはリョータ様が一番アル」
「そ、それを言うなら、アタシだってリョータを一番ってことにしてあげなくもないわよ、ふん!」
 アルカちゃんとビニーちゃんは、リョータの左右に座ってそんな言葉を口にしていました。

 で

 それを聞いたリョータは
「2人ともありがとう! 2人とも大好き!」
 そう言って笑顔を浮かべました。

 その言葉を聞いたアルカちゃんとビニーちゃんは
「そ、そ、そ、そんな……大好きだなんて……嬉しいアル」
「ちょ、ちょっとだけ喜んであげてもいいんだからね!」
 2人して顔を真っ赤にしながら照れまくっていた次第です。

 うん……一応微笑ましいってことで、いいですよね、これ……

◇◇

 この日の夕飯は、そんな2人からもらった兎の肉を串焼きにしたものを頂きました。
 スアに食べられる薬草を分けてもらって、それをサラダにもした次第です。

 この兎型の魔獣って小柄な体に似合わず、結構食べられる部分が多かったもんですから、僕達みんながお腹いっぱいになるのに十分だったんです。

 もし、あの2人に出会うことが出来たら、しっかりお礼を言わないといけませんね。

◇◇

 お風呂は、スアの魔法でシャワーを出してもらいました。

 いつもは家族みんなでお風呂に入る事が多い我が家ですが、今日はビニーちゃんがいますので、僕とスアの大人組は後にして、子供達に先にシャワーを浴びてもらいました。

 スアのシャワーは、いつもスアが使っている水晶樹の杖から出て来ました。
 スアが魔法で、近くの川から水を呼び寄せて、それを適温に温めてから、噴出させています。

 頭上から雨のように降り注いでくるシャワー。

 裸になった子供達が、一斉にそのシャワーの下に駆けこんで行ったのですが……
「ちょ!? りょりょりょリョータくんの前ではだ、はだ、はだ……」 
 ビニーちゃんだけは、リョータの前でどうしても裸になれなかったもんですから、我が家の子供達の後に、1人でシャワーを浴びてもらった次第です。

 その後、寝間着に着替えた子供達を簡易小屋の中にありますベッドの上で寝かしつけた僕とスア。
 みんな、いっぱいスアの手伝いをしたもんだからか、あっという間に寝入ってしまいました。

「じゃあ、僕達もシャワーをすませちゃおうか」
 僕の言葉に、スアは嬉しそうに頷きました。
 
 スアは、水晶樹の杖を近くに突き刺しました。

 遠隔操作で、その先からお湯を噴出させていきます。
 そのお湯で、裸になった僕とスアは体を洗っていきました。
 
 たまには、こういうのも楽しいものですね。

 その後、互いに洗いっこになった後、お互いに気持ちが高ぶってきた僕とスアは……おっと、ここからは黙秘させてもらいますね。

 一応、子供達には気付かれないように配慮したことだけお伝えしておきます。

◇◇


 翌日。
 スアの魔法の絨毯で昨日とは別の森へと移動した僕達は、そこで再び薬草を採取していきました。

 この森には、薬品の精製に使える貴重な魔獣もいたもんですから、
「……ちょっと行ってくる」
 そう言って、スアが森の奥に行って、この魔獣を大量に狩っていきました。

 それはもう……ブルドーザーのような勢いで……

 その間、僕達はスアが張ってくれた結界の中で作業していましたので、安全なことこの上なかった次第です。

 そこでお昼まで作業したところで、僕達は帰路につきました。

 魔法の絨毯で簡易小屋へと戻った僕達。
 幸い、今度はあの厄災のチュパカブラはいませんでした。

 ……まさか、スアにめんどくさい魔獣を処分させようとしているという目論見がバレそうになっているもんだからあえて控えたとか……いや、さすがにそれは考え過ぎかな……


 そんな事を僕が考えていると、スアが簡易小屋の周囲を覆っている結界を新しくしていました。
 これで、次回ドゴログマに来たときも、この小屋を使うことが出来るでしょう。

「……じゃあ、帰ろう」
 そう言うと、スアがパルマ世界に戻る転移ドアを作成してくれました。

 その扉を開けると、その向こうにはコンビニおもてなし本店の裏にあります巨木の家が見えています。

 僕達は、順番にその扉をくぐっていきました。

「パパ! ママ!また行きましょうね!」
 パラナミオが嬉しそうにそう言いました。

 そんなパラナミオに僕は
「そぅだね、またみんなで行こう」
 笑顔でそう言いました。

 僕の言葉に、みんなも笑顔で頷いてくれました。

 
 ……こうして、僕達の一泊二日のドゴログマ旅行は幕を閉じました。

 今回採取した薬草などで、スアが、コンビニおもてなしで販売する貴重な魔法薬を大量に精製してくれたのは言うまでもありません。

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