秋の終わりのドゴログマ その3
目的地である森に到着すると、スアは魔法の絨毯を着地させました。
とたんに子供達が飛び出していきます。
「うわぁ、ホントに気持ちいいです!」
パラナミオが満開の笑顔を浮かべながら周囲を見回しています。
パラナミオの言うとおり、ここは本当に気持ちいいです。
気温は春を思わせますし、風も爽やかです。
自然に満ちあふれているものですから空気まで美味しく感じてしまいます。
「ホントに、気持ちいいね、アルカちゃん、ビニーちゃん」
リョータも笑顔でアルカちゃんとビニーちゃんに声をかけています。
「は、は、は、はい、アルカもそう思うアル」
それを受けて、顔を真っ赤にしながらも、リョータのすぐ後を歩いているアルカちゃん。
「そ、そうね……リョータがそう言うのならそう言うことにしてあげても良いわ」
そっぽを向きながらも、その頬を少し赤くしつつ、リョータの後方をアルカちゃんと並んで歩いているビニーちゃん。
そんな2人にリョータが笑顔を向けると、アルカちゃんとビニーちゃんも思わずぽややんとした笑顔になっていた次第です。
なんといいますか、微笑ましいといっていいのかちょっと判断に悩むところではあるものの、みんな嬉しそうなので、この場はよしとしようと思います。
◇◇
そんな中、スアは早速森の入り口あたりで薬草を採取しはじめました。
魔法で一気に採取することも可能らしいんですけど、
「……新種があるかもしれないし、実際に手に取りながら採取したい、の」
そんな理由で、スアはこうして手作業で薬草を採取している次第です。
その横では、アルトとムツキもスアに並んで薬草を採取しています。
スアによりますと、
「……アルトとムツキは、魔法薬精製の素質がある、の……」
とのことらしくて、パルマ世界で薬草の採取に行った際にも2人にあれこれ教えてあげながら仲良く3人で薬草を採取しているんです。
で
それをここ、ドゴログマでも実践しているスア。
そんなスアの横で、アルトとムツキは、
「お母様、これ、珍しくありません?」
「……アルト、すごいね、これ珍しい、よ」
「むむ……ムツキも珍しのを絶対に見つけるにゃしぃ!」
「……ムツキ、ガンバ」
スアとそんな会話を交わしながら、楽しそうに薬草採取を頑張っている次第です。
そんな3人と少し離れたところで、リョータ・アルカちゃん・ビニーちゃんの3人がひとかたまりになって薬草を採取しています。
ただ、この3人は数種類の薬草しか認識出来ていないんですよね。
なので、判断出来る薬草が群生している場所で、その薬草だけをせっせと採取している次第です。
本来ですと、ここにパラナミオも加わるのですが、ここ、ドゴログマに来たときは先にすることがあるんですよね。
スア達から少しだけ離れた僕とパラナミオ。
「パパ、こっちです! こっちから川の音がします!」
嬉しそうな笑顔のパラナミオと一緒に、僕は森の中へ入っていきました。
少し進むと、そこに川が流れていました。
その周囲には、少し開けた場所もありますね。
「よし、パラナミオ。ここにしようか」
僕がそう言うと、パラナミオは
「はい!わかりました!」
満面の笑顔でそう言うと、着ているシャツをガバッと脱ぎ去っていきました。
同時に、ズボンも下着ごと脱いでいきます。
毎日一緒にお風呂に入っていますし見慣れている姿ではあるんですけど、一応横を向いておきました。
で、脱ぎ去った服を丁寧に畳んだ後、パラナミオはサラマンダーの姿に変化していきました。
そうなんです。
龍人で、サラマンダーなパラナミオの本来の姿はこれなんです。
ただ、パルマ世界では、龍が非常に貴重なもんですから頻繁にこの姿になっていると悪い冒険者とかに目をつけられてしまいかねません。
……まぁ、スアがいますので大抵のことは大丈夫な気がしないでもないんですけど、それでも危険は少ない方がいいですからね。
そんなわけで、パルマ世界では滅多にサラマンダーの姿にならないというか、なれないパラナミオ。
スアの使い魔の森でたまにこの姿になることもあるんですけど、あそこにはスアを崇拝している使い魔達がわんさか住んでいますので、
「スア様のお嬢様だ!」
「スア様のお嬢様ですわ!」
パラナミオの姿に気が付くと、そんな声をあげながら一斉にその周囲を取り囲んでしまうんです。
しかも、パラナミオがサラマンダーに変化すると、
「さすがスア様のお嬢様、素晴らしいお姿です!」
「こんなにご立派になられて……」
そんな感じで、歓声をあげまくりまして、絶対その側を離れようとしないもんですから、パラナミオ的にもあまり息抜きにならないみたいなんですよね。
ですが
ここドゴログマでは、街の人々の目も、スアの使い魔の皆さんの目もないわけです。
パラナミオも、思う存分サラマンダー姿を満喫出来るわけです、はい。
『う~ん、気持ちいいです~!』
思いっきり首を伸ばしながら、嬉しそうな声をあげるパラナミオ。
その伸びっぷりがあまりにも見事だったもんですから、僕まで釣られて背伸びをしてしまいました。
そんなサラマンダー姿のパラナミオですけど……
見る度に、姿が変わっているといいますか。どんどん立派なというか、かっこよくなってきている気がします。
出会ったばかりの頃のパラナミオは、サラマンダー化しても
「え? トカゲ?」
としか思えないような姿でしたからね。
脱皮を繰り返して成長した今のパラナミオは、少なくともトカゲと見間違う心配はありません。
立派なサラマンダーと言える姿になっています。
それにともなって、普段の姿のパラナミオも徐々に成長しているんですよね。
ストーンだった胸も、少し膨らんできたといいますか、徐々に子供から女の子っぽくなってきた感じがします。
あまりこんなことを言っていると嫌われてしまうかもしれないので、言いませんけどね。
パラナミオは、そのまましばらく川に入って水浴びを楽しんでいました。
その際に、川を泳いでいた割と大きな魚を咥えてきては
『パパ、晩ご飯にどうでしょう?』
そう言って僕の元にもってきました。
うん……あまり見たことがない形をしている魚ですね。
「あとでスアに聞いてみて、食べれるようなら料理してあげるよ」
僕がそう言うと、パラナミオは
『わっかりました! 頑張ってもっと取りますね!』
そう言いながら再び川に潜っていきました。
この川って、パラナミオが潜れるくらいの水深があるもんですから、パラナミオも嬉しくて仕方ないんでしょうね。
そんな感じで、しばらくパラナミオの魚取りに付き合った僕でした。
◇◇
持参してきたお弁当でお昼を済ませた僕達は、夕方になるまでここで薬草を採取しました。
水遊びを満喫していた僕とパラナミオも、午後からは薬草採取に加わって頑張った次第です。
「……じゃ、戻ろう」
スアの合図で、魔法の絨毯に乗り込んだ僕達は、簡易小屋の場所まで戻っていきました。
で、
そのまま、スアが魔法の絨毯を着地させようとしたのですが……
ギロリ
ギロリギロリギロリギロリ……
……な、なんということでしょう……
簡易小屋の周囲、防壁魔法の周辺にですね、またあの厄災のチュパカブラがいるではありませんか。
しかも大群で……
朝、あれだけの数を退治したっていうのに、またぞろこんな数の厄災のチュパカブラが集まっている光景を見ていると、スアが朝言っていた、
『「……私達に、厄介な魔獣を処分させるために、私達がここに来るのに合わせて、転移ドアの周囲に厄介な魔獣を放逐してる……とか……」』
それが現実味を帯びて来た気がしないでもないといいますか……
そんな事を考えている間に、この厄災のチュパカブラの大群はスアによって全部丸焦げにされていたのは言うまでもありません。