私たちも戦う!
「まひるちゃんは……」真夜は言いかけて口をつぐんだ。真夜は『オーバード』の話をしたがらないが、この状況下では言わざるを得なかった。「まひるちゃんも、オーバードになったのかもしれない」2人が驚く中、真耶が涙を拭いて立ち上がった「そうなると……やっぱり、助けてあげたいよね」
「うん」
「でも、まひるちゃんどこにいるのか分からないんでしょ?どうやって探すつもり?それに、まひるちゃんも戦ってるかもしれないんでしょ?それなら、私たちも……」
真夜の言葉を遮るように真耶が言った「私たちも戦う!!」
真夜は驚いて目を大きく開いた後、「わかった」と言って笑った。
そして3人で作戦会議を始めた。(続く)
「……という感じで、まひるを探しつつ殻獣を倒すってことでいいかな」真夜の言葉に真也が同意する「うん、それでいこう」
「でも、まひるがオーバードになっちゃってたら……」真矢が心配する。
「大丈夫。オーバード化の条件は分かってないんだし、なったとしてもすぐに解除できるはずだよ」
「そうだね、うん。じゃあまひるを探すのは明日からにして今日はもう休もうか」
こうして3人は解散した。
(続く)
次の日、早朝に目覚めた真也達は、真夜の提案に従って行動を開始した。まずはこの世界について調べることにしたのだ。
この世界では『異能の力』と呼ばれる不思議な能力を使うことのできる人間がいるらしいことが昨日の会話からわかっていた。
また、『オーバード』と呼ばれる存在もいるようだ。オーバードは『異能の力』を使うことができるらしい。
この世界の住人にとって『異能の力』とは『オーバードース』と呼ばれる現象によって得られるもののようだった。オーバードースにより、脳の一部が活性化することで『異能の力』を使えるようになるのだという。
オーバードースとは、脳の一部を活性化させることで一時的に通常の限界を超えた力を得られるという現象であり、それによって得た力は『固有能力』と呼ばれ、個人差はあるものの、普通の人間を遥かに超えた身体能力や特殊能力を得ることができるらしい。しかし、それは代償を伴うものだ。
その代償こそがオーバードーズである。一度オーバードーズを起こすと人格は崩壊し、二度と元に戻ることはないのだという。その症状のことをオーバード化と呼ぶらしく、オーバード化してしまうと理性を失い破壊衝動に駆られるようになり、最後には死に至るのだという。
またオーバード化には条件があるようで、オーバードースを引き起こすのはその人物の精神状態が大きく関わっているのだと言う。精神状態の不安定な人物がオーバードースを起こした場合、最悪暴走したオーバードによる犠牲者が出ることもあるという。
(続く)
この世界にも『世界災厄』と呼ばれる脅威が存在する。この世界では『オーバードース』は『世界災厄』と呼ばれる『怪物』の1種として分類されている。
『世界災厄』は『世界』を滅ぼすほどの力を持つ『世界の脅威』の総称であるが、その中でも特に強力な力を秘めているとされる『世界災厄』を『世界災厄級』と呼び、現在確認されている『世界災厄』は5体存在する。
そのうちの1体が『世界災厄級』の中でも『最悪の災害』として恐れられている『人類終焉の象徴』、『大災禍』だと言われている。しかし、この『大災禍』については詳しい情報は判明していない。『世界災厄』はオーバードースが引き起こすオーバードライブと呼ばれる超常的な力により、自らの体を変形させることができる。その能力は個体によって異なるが、その力があまりにも強大であるため、オーバードースの発動には大量のエネルギーを必要とするため、その規模は限られているという。
しかし、オーバードースは使用者の肉体を蝕む。オーバードースを何度も使用すれば、その体はボロボロになり、最後は死に至らしめてしまう。この世界の人間にはオーバードースに耐えうるだけの体力と肉体強度がないのだろう。
(続く)
「オーバードースには『肉体強化型』と『肉体変化型』の2種類があって、肉体が変化した時に起こる副作用はそれぞれ違うんだけど、まひるの場合はおそらく肉体が強化されたタイプだと思うんだよね」
「うん」
「まひるは……たぶん……自分の肉体を強化するタイプのオーバードースだったんじゃないかなって思う」
「なんで?」真夜が不思議そうに聞く。真也も疑問に思っていたことだ。なぜ真夜はそう思ったのか……。真也達の質問に真夜は少し考えてから答えた「……だって、まひるが使ってた銃がすごく高性能だったからさ。まひるってあんまりお金持ってなかったし」「あー……なるほどね」真耶は納得したようにうなずいた。真耶も真也も真奈も、オーバードースにはあまり詳しくないので、真夜が言うことに反論はなかった。
「でも、まひるの武器って、まひるが自分で作ったんだよね?だからまひるは自分を強化してるんじゃなくて、まひるのお父さんの能力を受け継いでるってことじゃないのかな」真矢が言うと真耶が首を横に振った「ううん、まひるの父親はまひるが小学生の時に亡くなってるんだ。それに、まひるの装備も、まひるの父親の『空間移動』の能力によるものじゃないかと思うんだよね」
真也は考えた「まひるの父親はどんな人だったの?」真也の問いに真耶は考え込む。「そうだね……まひるちゃんのお父さんはね、とにかくすごい人なんだ。いろんな国の言語を話せて、料理が上手で、あとは……まひるちゃんに似てた」
真也は驚いた「まひるに似てた?」「うん、まひるちゃんのお父さんは、まひるちゃんの髪の色と同じ黒髪をしてたんだ。身長が高くてね、まひるちゃんと初めて会った時はびっくりしちゃった。でも、まひるちゃんと話すうちにどんどん好きになっていって……」
真耶はそこまで言って、真夜と真也が目を丸くしているのに気が付いた「えっ……あっ……ち、違くて!そういう意味じゃなくって!」慌てて取り繕う真耶を見て真夜と真也は微笑んだ「ふぅん……まひるのパパのこと好きなんだ」真耶は顔を真っ赤にした「そ、そんなんじゃないよぉ……ただ……まひるちゃんのことが大好きなのは……ほんとだよ」
「……まひるもきっと喜ぶと思う」「……そ、そっかぁ」
「ねぇ、真耶さん」真也が真剣な顔で真耶を見る「な、なに?」「まひるがどこにいるのか分かる?」真耶が答える前に真夜が割り込んだ「ちょっと待ってよ、シンヤ。まだ真耶さんの話を聞かないと」「でも……」
「あの……ごめんね、私も分かんないんだよ」真矢が真夜に耳打ちをする「えっ……」真夜は驚いて目を見開いた「まひるちゃんがどこにいるか分からないの?」
真夜は悲しげにうなずく「うん、そうなんだ。まひるちゃんは、私のところに来たのは2週間くらい前だったから……」「2週間……」真夜がつぶやく。2週間もまひるが行方不明になっているという事実が真夜の心に重くのしかかる。
「まひるちゃんがどこにいるのか分からないなら、まひるちゃんのことは諦めて他の人を探さない?まひるちゃんも、きっとどこかで生きてる」真耶は真夜を元気づけるように言った「……まひるが生きていないかもしれないなんて、私は思ってない」