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シャーロット

その様子は最早、姉妹同士の喧嘩というよりも意中の異性をめぐるライバル同士といった様子だった。真也はまひるに『妹じゃない』と否定されたが。真姫が妹と明言していないことを思い出し、改めて問う「真姫。お前とまひるって、本当に兄妹じゃないんだろ?」
「え、うん」
しかし。
真姫の返答はあっけらかんとした様子だった。
その返答を聞いたまひるの顔からはみるみると血の気が引いて行った「あ、あれぇぇぇぇ? ど、どういうことです? 私を騙していましたの? お兄さん、お姉様? 説明を、お、お願いしますわ……! ねぇ、答えてくださいまし……!」
まるで自分が悪者かのように詰め寄るシャーロット。真也は彼女の顔を見つめながら「じゃあさ」と言う「もし真奈とまひるが姉妹で、俺がまひるの兄貴だったとして、それの何が悪いんだよ。俺はこの世界の人間じゃないし、そもそもお前が何を言っているのかわからないよ。あと、さっきまひるにも言われたけど。俺の『お姉ちゃん』を名前で呼ぶの止めてくれないかな。不快だ」
その言葉は冷徹なものであり、その言葉を聞いて真奈はまひるの後ろへ、まひるは真也の方へと歩みを進めた「……まひる、大丈夫?」「……お、お兄ちゃ」まひるの手を握ると真那に背を押され真也はまひるに微笑む。それはまひるが大好きなものの一つだったが。今の彼女にはとても残酷に映った。
シンヤが倒れた後。レイラたちはすぐにシンヤの搬送を要請しようとしたが、病院側が拒否した。
『オーバード』の集団に院内を歩き回られるのを恐れたのだ。真奈たちがシンヤの病室に常駐するようになった。レイラは最初こそ難色を示していたが、美咲の説得により真奈たちを留め置くこととなった。真也が目覚めたときに、誰か一人でも病室にいた方が真也が安心できるだろうとの事で。シャーロットはその後もずっと「私は認めていません」と言っていたが、「いい加減うるさいぞ」と声を上げる伊織が取り押さえた。
真矢がシャーロットに対して謝罪する中、まひるは部屋に戻り布団を被った。その表情にはいつもの笑顔は無く、その日まひるが笑うことは無かった。
翌日、熱が完全に引いた真也が目を覚ました時には既にソフィアは居らず。真也が目を覚ましていることに気付いた真奈はすぐに彼の下に駆けつけた。
「おはようございますお兄さん。よく眠れましたか?」その問いかけはいつもの明るいもので、それが一層、真也の胸を痛めつけた。「ああ、ありがとう」
真也はその日初めて真奈の目を見ることができなかった。そんなやり取りがあった日の夜。夕食時。まひるが真也を呼び出す。
「真昼」真姫に呼ばれたまひるは、普段通りの声で「なぁに? おねえちゃん」と答えたが、真也の眉間にシワが寄せられた。真姫と美咲に睨まれ、真奈と並んで座り直した。真姫はまひるを問い詰めたかったが、真那の行動によってその機会を失った。

「お嬢様は、どうして昨日のあの時にあんな態度をとったんですか。間宮先輩がかわいそうです」と真姫が問い詰めると、まひるは戸惑いを隠せなかった。真姫が真矢を睨むように見ると、真矢は視線から逃げるように横を向き「すみませんでした」と言った。真姫は何か言いたげではあったが、そのまま視線を落とし黙り込んだ。その瞳は悲しげに見えたが、それ以上に寂しさのようなものを感じるものであった。

まひるは「でも、私がお姉ちゃんと仲良くするのが嫌なら、言ってくれれば良かったのに......」と謝り、真昼も「あなたに問題があるわけではありません。全て私のせいですわ。申し訳ありませんお兄さま。お見苦しいところをお見せいたしましたわ。お兄さま、今日はお食事の後少しお話があるので、お部屋に戻られた際にお時間頂いてもよろしいでしょうか?」と謝罪した。

美咲の「ご飯にしましょー」という号令と共に朝食が始まった。真也が入院している3日目の夜のことだった。真也は真也の左横に座るシャーロットが震えていることに気がついた。真也はその事に特に反応することもなく黙々と箸を進める。まひると美咲は心配そうな顔でシャーロットを見ていた。

「それでお姉さま。ご相談したいこととはなんでしょう?」と真昼がシャーロットに尋ねた。真也も箸を止めてシャーロットを見た。
「なっ!?」
真奈は驚いて声を上げそうになるのを抑えるように口に手を当てたが、しかしその顔は完全に引きつっていた。「な、なんのことですか……お兄さん、なんの話ですか……? 真也さんは私たちに何かを隠しているんですか……?」
「……お姉ちゃん。
まさか……お姉ちゃんも……!?」
「え、真姫ちゃんまで!?」真也が何かを隠すように言うのを聞き真矢が声を上げた。「あ、違うんです、その……私の勘違いかもしれませんし……! あ、あの、そうですわよね? 間宮様! お兄様!…………間宮様?……お兄様?」
シャーロットは真也に助け舟を求めたが彼は俯いて何も喋らない。
その姿をシャーロットは、自分が隠し事をしている事について怒っているからなのだと解釈してしまった。
(そんな!)「お、お兄さま!本当に知らないんです……私はお父様に命令されて……そういえば、この事はお姉さまやまひるも知らなかったようでして……。私はお姉さまがお母様のことをどう思っていたのか、知りたかっただけなのに……。」
シャーロットの言葉はどんどん小さくなっていく。「え……?」まひるが困惑して声を上げるが、それに気が付く者は誰もいなかった。「いやぁ、まぁ、確かに。ちょっとした興味だよ。
だって君らの母親ってあれだろ? ほら。」
真也が口角を上げて言葉を続けようとするのを真姫が「いい加減にしてください!」と叫び遮った。
その声のあまりの大きさに真也を含めたその部屋の全員の体がびくりとはねた。
「真姫、うるさい。もう消灯の時間なんだが。もう少し考えなさい。」
いつのまにか病室の出入り口に九重院長がいたらしく真姫は「すみません。以後気をつけます。失礼します。」と言い残して病室から出て行った。美咲も一緒に立ち去った。
病室に残った者たちの間に妙な空気が流れる。「……シャーロット。
俺らはさ、みんなが幸せになってくれるならと思って今までやってきたんだよ。」シャーロットはハッとした表情をしたが「そんな、私はただ……!」と言い訳を始めようとしたが真姫がシャーロットの腕を掴み「お嬢様! 帰りましょう!」と言って無理やりシャーロットを連れ出し去っていった。

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