あれどういう意味かな
「なんか、最後に凄いこと言われた気がすんだけど……」
それは誰もが思うことであった。
間宮の言う『想像力』というものが具体的に何を示しているのか全く想像できないものの、あの口振りだと『自分たちが生き残れない事』を指しているような気すらしてしまうのだ。そんな中、透が真也に向かって口を開く。
「なぁ間宮、俺たちって本当に、あんな風に殺されるのか?」
「それは……わかんない。俺はただ、あいつに言われた通りに生き残ることを考えてるだけだから。……多分、そうなるんだろうなって、俺も思うよ」
「……」
彼の答えを聞いて透が俯き、沈黙が流れる。それを破ったのはまひるの声だった。
「ね、ねぇ。さっき言ってたよね、津野崎さんの『私にも』とか、『私のせいだから』っていう言葉。あれどういう意味かな?」
それは確かに先程、シンヤが気絶する前に彼女が口にしていたものだった。だがその言葉をシンヤ自身も聞き逃したらしく、なんのことかわからずにいた。
「俺が、気絶する前にそんなことを?」
しかし他の皆は覚えがあったらしい。思い出そうと視線を落としながら各々で会話が始まる 。
「ああ、たしかにまひるちゃんと同じ様なこと言ってましたよ」
と真也が肯定すればまひるが目を丸くする。
「えっ、ほんと?わたし、全然わからなかった……!」
その様子に、レオナが自分の推測を述べるために挙手し、発言の許可を求める。「間宮君と喜多見さんが襲われたとき、間宮君は一度死んでしまった。その後、蘇ったが……その時の記憶は無いんじゃないだろうか」
「そういえばシンヤくん。起きたときに自分の状態がわからなかったみたいです!」
まひるの発言により、それが正解なのだと理解できた。つまり、彼が言ったのは。
「じゃあ……シンヤ君の言ったことは……。……そういうことなのか!?︎」
その声に反応して顔を上げたのは津乃田とルイスであった。彼らの目に映ったのはまひると同じく、驚愕に顔を染め上げた真也である。……もしや彼は自分たちの身に起きたことに心当たりがあるのではないか? そう思った彼らはまひると同じような問いを真也に投げかける。
「ま、間宮さん!貴方は『何かしら知っている側』ではないですかネ!?︎どうなんデスか!?︎ その表情から察するに当たりらしいが……それでも真也は答えられない。彼は、その『記憶の封印』を解く鍵を知らないのだ。そして思い出せるほど落ち着いていないのが事実である。
(どう答えるのが正解なんだ……?)
真也は自分の頭の中の引き出しをひっくり返すが、都合よく良い言い訳など出てこなかった。そもそも自分が今『嘘をつくべき』という意識に縛られていることも自覚できていないのだが。
真也の反応を見かねたまひるがフォローに入る。その意図には気付かぬまま。
「ごめんなさい、ちょっと大きな独り言だったので聞こえませんでした」
まひるの誤魔化しの言葉に2人は「あっ」と漏らしたが、真也とまひるが気にする様子は無かったためそれ以上の追求はできない。そして、再び議論が始まった。
◆ 議論が続く最中、ふとまひるはある考えを思いつく。
そして恐る恐ると手を挙げた。彼女の目線の先にいる人物はレオナである。まひるが手を挙げるとは思ってもみなかったようで、驚いた彼女はすぐにまひるへと視線を向ける。目が合うと、彼女は恥ずかしそうに手を下げる。
だがそれも束の間。まひるはすぐに決心を固め、今度はしっかり手を挙げて口を開いた。
「あの、少しいいでしょうか」
まひるの発言に対して皆が彼女に注目する。それはそうだ。先程のまひると真也の様子を見たあとにこのような事を口にするのはいささかタイミングが悪いように思われた。
そのせいもあってまひるに向けられていた視線は再びシンヤの方へと向かう。まひるの目論見通りである。
しかし、誰も口を開こうとしないまま数秒が経過してしまった。気まずくなった彼女はおどけた調子で言う。
「やっぱりなんでもありません……」
「間宮の妹。お前も知ってるのか?」
シンヤに問うたのは津乃田だった。それに対して、真也が答えるよりも前に透が質問を重ねる。
「さっきの彼の言葉、本当だと思うかい?」
その問いかけにルイスは首を振るう。
「いえ。そんなわけないわ」
ルイスははっきりとした声で断定し、その理由を述べた。彼女の脳裏に浮かぶのはシンヤの姿だ。
『シンヤが自分たちを殺している』と言ったとき。シンヤは確かに、ルイスのことをしっかりと見ていた。それは間違いない。だからこそ彼は否定するだろうと思った。
シンヤはまひるとルイスの様子をちらりと見てから言葉を紡ぐ。
「僕も同じ意見だよ」
まひると真也が同じ思考に至ったのと同様に。ルイスもまた、同様の結論を出していたようだ。
まひると同じ結論を出した理由を聞くより早く、シンヤは次の疑問点を上げる。
「じゃあ次は『どうやってシンヤ君は死んだのか』だね。……間宮君が殺したってことは考えられないよね。
彼はあんな状態だし。それに、まひる君の言うことが正しければ僕らの中に彼がいた時『死んでいなかった』はずだ」
「でもシンヤ先輩は、今私の隣で寝ていますよ? 心臓の音もちゃんとしますし、呼吸だってあります。……これはどう説明するんですか!?︎」
その指摘にルイスたちはハッとする。『死んでから死体になった』のならば納得がいくものの、その仮説はあくまで生きている状態でシンヤの死体が出てきた場合のみ有効である。シンヤを刺したときまひるが返り血を一切浴びなかったことからもその説は完全に間違っていることが理解できる。
「じゃあさ、シンヤがおかしくなって誰かを殺したなら、その時彼はどこに消えたの?」
まひるは答えられない。なぜなら、それを知らないからだ。そしてそれはシンヤも一緒であり、彼はただ一言呟くだけだった。
「分からない……本当に、覚えていないんだ……」
真也の頭の中にはぼんやりとした光景だけが浮かぶのだが、その場所を特定することは出来なかった。そしてそれはシンヤも全く同じらしい。
2人のその返答を聞き、ルイスたち3人は考える。
「シンヤが狂った時の話だけど、彼の体はどこかに隠れて無事なのかしら?」
まひるの発言を受けて真っ先にその可能性を指摘したレオナにシンヤは首を振るう。
「違うと思う。もしそうならまひるが気づくはずだし、なにより彼は今も生きて、僕がこんなことになっていることに違和感を持つはずだ」
その言葉を聞いてルイスはある事に思い当たる。そしてその事実を確認するように口を開いた。
「まひる。あなたはどうして彼の遺体を見つけたの?」
まひるは少し考えて、思い出しながらゆっくりと話し出す。
シンヤの遺体はなぜか真っ白になっていたため、最初発見したのはまひるではなくルイスである事。
その際に彼の顔を見てまひるも彼の死に気付いた事。
「えっと……私がシンヤの遺体を見つけて悲鳴を上げたら、他の皆さんが起き出して……。それからシンヤの体に何かあったらいけないと思って、遺体を隠そうとしたのですけど、結局見つかってしまいました」
まひるの言葉に全員が押し黙る。ルイスはまひるに礼を言う。
「教えてくれてありがとう、まひる」