第15話 呪われし者
お互いに向かって走り出す俺とエイトフロアー。交錯する瞬間、奴の牙とナーゲイルが激しく火花を散らす。
「ちぃ、固い!」
すり抜け様に胴体に突きを入れるも、剛毛に防がれ刺さるどころか弾かれる。異世界召喚されるの分かってたら剣術でも習っておけば良かった。まあ、そんな奴はいないだろうが。それでも自分に技術がない事を思い知るには十分だ。力任せに剣を振るってもエイトフロアーにはダメージが通らない。
シスターモモにマイマインを召喚させるとエイトフロアーの後方へと走り抜けるついでに、後ろ足目掛けて叩き付けた。エイトフロアーがひっくり返ったスキをついて焼け野原の端まで後退した。
「ナーゲイル、実体化してここで彼女を守れ。イメージ実体化の方でても防御結界を張る事は出来るか?」
『すみませんご主人さま、無理でございます。ですがこのナーゲイル、天地神明にかけましてご主人さまの想い人であらせられるお嬢様を、この身を挺してでも御守り致します』
「大丈夫なのか?」
『むしろご褒美でございます』
ブレないナーゲイルに苦笑しながらも少し安心している自分がいる事にも苦笑してしまう。
ふとシスターモモに視線を移すと最初は突然現れた真っ白い変態男に驚いていたようだが、ナーゲイルのある言葉に反応して顔を真っ赤に染めながら『想い人……想い人……』と繰り返している。
こちらもブレないなぁ。
苦笑しながらもシスターモモにここで待つ様に伝えるとエイトフロアーのいる方向に向かって身を翻ひるがえし走り出した。
走り出してすぐある疑問が浮かんだ。今までティーもナーゲイルも見えていなかったはずなのに、何で急に見える様になったのか?
その疑問にティーが元気良く答えた。
『ボクがシスターモモをパーティーに登録したから、エルム様がマスターに掛けたのと同じ補正の影響を受けているのさ!』
もともとこの世界には冒険者もパーティーも存在していない。女神エルムが俺に分かり易いように感覚をゲーム風にしているからこその恩恵なのかも知れない。
「ティーの事もナーゲイルの事も見えて言葉も分かるならそれに越した事はないさ。
『ふっふーん、気が利くでしょ!』と胸を張るティーだが、これはエルムの恩恵であり自分で何かをした訳ではない。
さっきまで目を回して俺の
さて、現状最大の流され案件! 魔獣スーパーエイトフロアー。コイツに恨みはないし、可哀想だと思う気持ちも無くはないが女神からのクエスト対象だ。村の人々の安全の為と俺の借金返済の糧となってもらおう!!
俺は自分の身の丈ほどもある大剣ナーゲイルを振るってエイトフロアーに斬り掛かる。最後に投げたマイマインで足を負傷したのだろうか、突進してくるエイトフロアーの動きにスピード感が無くなっていた。
突進を余裕でかわしながら、ナーゲイルの重量を生かして叩き斬ろうとするも、体表を覆う剛毛に流されダメージが通らない。
一方、エイトフロアーもスピードと重量を生かした突進で今までの敵を葬って来たのだが、この人間には通用しない……と感じたのか、巨大な牙による攻撃へと攻撃方法をシフトしてきた。
牙による鋭い突きだが、身体強化された俺にはかわせない程の攻撃ではない。お互いに決め手のないまま、
「ゼハーッ。ティー、ナーゲイル……コイツにとどめを刺す方法……ゼハーッ。何かない……のかよ!」
『それは難しいですね、ご主人さま。前の勇者さまも、決定打のない打ち合いに持ち込まれて、疲れてバランスを崩したスキに牙で貫かれ空中に放り投げられて、最後は先ほどの竜巻で舞い上げられてしまいましたから』
「ナーゲイル、目の前が真っ暗になる情報ありがとう!」
シスターモモを守っているナーゲイルを一瞬、にらみ付けたスキに突撃してきたエイトフロアーの鋭い牙による一撃が脇腹を掠める。くそっ、ヤバかった。
『あ、でもでもご主人さま! これでも
それを早く言えってーの! 全くコイツは本当に使えるんだか、使えないんだか分からない剣だ。とは言え魔法の使えない俺にはあの化け物を倒す方法は悔しいがナーゲイルに頼るか、一か八かの召喚術しかない。あまり気は進まないが、ここは素直に頭を下げよう、アイツを倒す為に!!
「ナーゲイル頼む、その本来の力を発揮させるにはどうしたら良いんだ。教えてくれ!」
『うーん、私めには【呪い】が掛けられておりまして、残念ながら
「………」
『ん?、ご主人さま?』
「遥か彼方、虚空の果てまで飛んで行きやがれナーゲイル!!!」
俺は怒りに任せてナーゲイルを全力で空に向かって投げ捨てた!
『あっ、あっ、うわぁああぁぁぁぁぁ!』
ナーゲイルはくるくると回転しながら、キラリと光るお星さまになった。……はずだった。
柄の両側にあった
そしてくるくると回転しながら反転落下し、エイトフロアーの
「あっ……」
「えっ……」
『へっ……』
『おぉおぉぉぉ』
「ぴぎゃあぁぁぁぁあぁ!!」
強靭な外毛装甲を誇るエイトフロアーであったが、唯一の弱点を
『ひゃ、ひゃふがわご主人はま。わか呪いの一部ほいっひゅんで解いてみへるとは!』
目を回してろれつの回らないナーゲイルはそれでも精一杯の賛辞で俺を讃えた。俺とシスターモモはあまりの事に絶賛絶句中だ。
サポート妖精のティーからも微妙な賛辞の声が上がった。
『なにはともあれ、なんかやりましたねマスター。ミッションクリアーです!』
「ああ……なにはともあれ、とても納得がいかないがやったぞ!」
俺の眉間にシワを寄せて引きつる笑顔に、駆け寄ってきたシスターモモは苦笑している。
本体の影響を受けているのか、少しふらふらとしながらも実体化ナーゲイルも俺の元に駆けてきた。
『いやぁー流石は我がご主人さま。私がこの呪いを受けて三千年、たとえ一部であろうとも解呪に成功したのはマスタービート様ただ一人だけでございます。本当に素晴らしい!』
「褒められるのは嬉しいが……俺には解呪出来た理由がさっぱりだから。」
『
俺は両手の握りこぶしを実体化したナーゲイルのこめかみにあてるとギリギリと締め上げた。
「お前も駄洒落か!」
『ああ、痛い……でも気持ち良い。こんなご褒美……あっいやいや、お叱りを受ける意味がわかりませんよご主人さま━━!』
ナーゲイルの歓喜の悲鳴だけが焼け野原にこだましていた。
ーつづくー