第38話 魔窟
人も
下層へ向かう階段を、音を立てないよう慎重に進んでいく。
手にした松明が薄闇を照らす中、階段の終わりが
一桁台の
エリシュの所持している大雑把な
それほどの、数。圧倒的な戦力差。
地獄絵図でも見ているよう。
だけどここが地獄なら、最下層は……。
想像するだけで全身が粟立ち、得体の知れない恐怖が全身を凍てつかせていく。
(———今、考えるのはやめよう)
俺はそう自分に言い聞かせた。
慌てず音を立てないように、できるだけ素早く。
下層を進むにしたがって、自ずと確立された
今のうちに距離を稼ぎいたい。下層へ続く階段近くまで。
まるで甘えているかのような、
(ちっ! もっとぐっすり寝てろってんだ!)
吐き捨てるように舌を打ち、通路の脇に顔を伏す。そのまま視線が、縫い付けられた。
目を覚ました
『グオ』
「———全員走れ!」
まともに相手をしていたら、きりがない。ここからは何においてもスピードが優先される。
緩慢な動作で起き上がる
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エリシュの知識でも網羅しきれない、得体の知れない
取り囲まれたら、それで終わり。動き続けなければ、活路はない。
「みんな! 突き当たりを右です!」
エリシュから託された
「いちいち相手にしていたら、こちらが持たない! ヤマトと俺で道を切り開く! 他は後からついてくるんだ!」
マルクへの返答代わりに、エリシュが短い詠唱を唱え出す。
群がり迫る
だが、それだけで十分だ。
エリシュが作り出してくれた口火。その侵入路へ、俺は突貫する。
波に飲み込まれながらも、深く深く抉っていく。
懐深く飛び込んでしまえば、連携などまるでない
ただ
俺はこのチームの矛先だ。決して折れることは許されない。
俺が抉り削った活路を、マルクが保持。石斧や棍棒など
エリシュたちが最後に飛び込む頃には、俺は分厚い
「早く抜けて来い!」
「よし! 全員抜けたぞ!」
最後まで盾役に徹したマルクが、合図を出す。
迷路を塞ぐように群がっていた
そして壁を抜ければ、
突き当たりまであと少し。右に曲がれば、下層へ続く階段だ。先頭の俺は駆けながら、鋭いステップで右へと折れる。
「———!!」
急ブレーキ。
地面の土を削りながら、どうにかスピードを殺し切った。
「どうしたヤマト。何か」
「しっ! ……静かに。前を見てみろ」
通路の奥のほうに見えるのはデスバッファローが、四体。
たむろしていた。まるで階段を死守するかのように。
距離があるからか、こちらにはまだ気づいていないようだ。
「流石に真正面から、デスバッファロー四体とやりあうのは厳しいな……」
「みんな。ちょっと遠回りになりますが、今きた道を右じゃなくて、左に曲がれば大きく迂回して、階段の裏側に出ます。それならばあるいは……」
確かに背後からの奇襲なら、先制攻撃で楽に二体は倒せるだろう。
そうなれば勝率は格段に跳ね上がる。
真っ向勝負。しかも四体のデスバッファローと同時にやりあうのは、疲弊が見え始めた今の状態では、かなり厳しい。
仮に勝てたとしても、相当削られる。体力と魔法力を。
手持ちの回復薬も、残り数本。一滴たりとも無駄にはできない。
(どうする……。距離はあるが、ここから奇襲を仕掛けるか?)
「ヤマト。ここは無理をしないで、クリスティの言う通りにしましょう」
エリシュが俺の気持ちを鎮めてくれた。
一番付き合いの長いこの相棒は、俺の不安定な心の内を読み取って、優しく導いてくれる。
迂回という選択肢。やっぱり、それが一番かもしれない。
「おしっ! じゃあサクッと遠回りして、軽ーくアイツらを倒し」
勢いよく振り向いた俺の目に、飛び込んできたモノ。
それを目の当たりにした俺は、この世界に来て、初めて襲いかかる絶望感に恐怖した。