コンビニナカンコンベ その4
コンビニナカンコンベの店長をしているユキカが、陣中見舞いと称してコンビニおもてなしへやってきました。
そんなユキカを、僕はコンビニおもてなし5号店西店の奥にあります、応接室へと通しました。
その途中、ユキカは何度も店内を見回しては、
「ほうほう」
「へぇ」
「ふむふむ」
などと、口にしてはしきりとウンウンと頷いていました。
で
そのまま応接室に入った僕とユキカ。
すると、着席するなりユキカが口を開きました。
「店長さん、このコンビニおもてなしの店内はとても明るかったですね。魔法灯を使用なさっているのではないのですか?」
「えぇ、魔法灯ですよ。ただ、コンビニおもてなしで使用している魔法灯は、僕の奥さんの魔法使いが蛍光灯を研究して従来の魔法灯よりも明るい魔法灯を開発してくれたので、それを使用しています。コンビニおもてなしでは全店でこの魔法蛍光灯を使用しているんですよ」
「へぇ……け、蛍光灯と、魔法灯のハイブリッドってやつですか……」
「えぇ、おかげさまで明るさは通常の魔法灯の倍、消費魔力は10分の1程度になっています」
「ほうほう」
ユキカは、相変わらずその顔に満面の笑顔を浮かべたまま難度も頷いています。
ですが……
僕は、そんなユキカのある変化に気がついていました。
1週間前に初めて会ったときのユキカよりも、彼女は明らかに痩せていました。憔悴していると言った方が正しいかも知れません。
気丈に振る舞っていますが、頬がこけていますし、そんな様子がありありと伝わってきます。
笑ってはいますが、その笑顔にもどこか元気がありません。
いわゆる、空元気的な笑顔とでも申しますか……そんな感じです。
そんなユキカは、
「……その……店長さんは、私と同じ日本人とのことだったよね?」
「えぇ、そうです」
「商品はどうしたのです? 仕入れはどこから?」
こんな感じで、コンビニの、主に商品のことについてあれこれ質問を僕にぶつけてきました。
正直、本来であればこんなことに答える義理はないかもしれません。
いわゆる、企業秘密ということにしておくことだって可能だったとは思います。
ですけど、僕は
「商品の大半はこの世界の商品を使用して作成しています。元いた世界で販売していた商品を参考にして、それらをこの世界で入手出来る材料を使ってあれこれ再現したり、まったく新しい商品を開発したりしながらやってる次第です」
そんな感じで、正直に返答していきました。
しばらくそんな感じでユキカの質問に答えていた僕だったのですが、ユキカの質問が途切れたあたりで僕の方から質問していきました。
「ユキカさん、ちょっといいかい?」
「はい、なんでしょう?」
「この1週間、コンビニナカンコンベの営業の方はいかがでしたか?」
「……そ、そうだね……うん、ぼちぼち、かな……」
「で、コンビニナカンコンベは、商品開発をどうしたのです?」
「え? しょ、商品開発?……」
僕がそのことを質問すると、ユキカは一目でそれとわかるくらいに動揺しました。
相変わらず笑顔をその顔に浮かべてはいるものの、その笑顔が引きつっているのがわかります。
……そんなユキカの様子を見た僕は、コンビニナカンコンベの状態がだいたいわかったような気がしました。
ここからは憶測ですが……
コンビニナカンコンベは、おそらく在庫商品を販売していたのでしょう。
元は、僕の世界の大手コンビニチェーン店であるセブンセンテンスです。
おそらく、賞味期限が短いパンや弁当など以外は、結構な数を店内在庫として抱えていたはずですからね。
その店内在庫を販売しながら、その間にあのマリリンっていう魔法使いの力で、日本への転移ドアを作成してもらおうとしていたんじゃないでしょうか。
そうすることで、定期的に元の世界に戻り、日本から商品を補充をしようと考えていたのではないかと思います。
……ですが、それがうまくいかず、商品の補充もままならず、1週間もたたずに売る物がなくなってしまい……その結果、コンビニナカンコンベはいわゆる開店休業、ひょっとしたら、今はもう店を開いてもいないのかもしれません……開きたくても開けないというか……
僕は、ユキカにその事をぶつけてみました。
ユキカは、僕の説明を一通り聞きますと、
「ははは……なかなか鋭いな店長」
笑いながらそう言いました。
で
笑いながらも、ユキカは体を少し震わせていました。
なんとかして気丈に振る舞おうとしているユキカですが……その笑顔は完全にひきつっていました。
なんとかして気丈に振る舞おうとしているのが、ありありと伝わってきます。
ですが、それも限界に近い、そんな感じです。
おそらく……ユキカはこの1週間、必死だったんだと思います。
なんとかして、マリリンの転移魔法が完成するまでの間、コンビニナカンコンベを維持しようと、必死に頑張っていたんだと思います。
……ただ、転移魔法は、スアは一見簡単に転移ドアを作成してくれていますけど、本来とても難しい魔法なんです。
特に、この世界と他の世界をつなぐ転移ドアを作成するのは至難の業だと、スアの自称弟子であるブリリアンがよく言っていましたからね。
にも関わらず、スアはこの世界とは別の世界に存在している神界の下部世界であるドゴログマへの転移ドアをいとも簡単に作成してしまいます。
いとも簡単に、と、いうのはあくまでもそう見えるだけなんだと思います。
それも、スアがやっているからこそ、そう見えるんだ、と。
ここで僕は、話をコンビニおもてなしのことに変更しました。
「いやぁ、僕もこの世界にやってきてすぐの頃はとても苦労したんですよ……」
僕は、最初からこの世界の商品を使用した商品展開を模索したわけです。
この世界で手に入る品物を調べ、それを実際に手にとり、それを調理しては、商品に仕上げて、それを販売していきました。
最初は、屋台で様子をみたりもしました。
この世界では入手が難しい塩や味噌なんかは、スアのプラント魔法のおかげで増産することが出来るようになりました。
弁当に使っているタテガミライオンの肉なんかは、イエロ達が狩ってきてくれました。
ルア工房のルアにあれこれ相談して、弁当の容器を作成してもらったりもしましたし、テトテ集落の皆さんから野菜を仕入れさせてもらったりもしました。
コンビニおもてなしは、幸いなことに店内で調理したパンやお弁当を販売しているというのを売りにしていました。
そのおかげで、最初から店内にパンを焼くための窯や調理施設があったわけです。
そこで、仕入れた肉や食材を使用してあれこれ調理していったわけです。
だからこそ、結構早くに商品の仕入れというか、補充が出来る体制を整えることが出来たんですよね。
そんな話を、僕は独り言のように続けていました。
それを、ユキカはいちいち頷きながら聞いていました。
◇◇
2時間近く僕の話を聞いていたユキカ。
「貴重な話をありがとうございました」
ユキカはそう言って深々と頭をさげました。
始めて出会った際に比べて、ユキカはどこかすっきりした様子に見えました。
……多分ですけど、ユキカはユキカなりのやり方でコンビニナカンコンベをどうにかしようとしたけど、上手くいかなかった。
そのことが、かなりストレスになっていたのではないでしょうか。
とはいえ、店員の前で弱音もはけないし……
しかも、今までの彼女の言動から察するに、ユキカはプライドがとても高くてポジティブな性格をしているように見受けます。
……誰にも相談出来ず、ひたすら一人で自問自答してたんじゃないかな
ユキカを見ながら、僕はそんな事を考えていました。
で、そんな僕の前で、ユキカもあれこれ考えこんでいた次第です。