不穏4
「……これは一体どういうことでしょうか?」
マクスェルの声が怒気を孕んでいる。
本当に彼は何も知らされていないのだと知る。
彼が知らないところでこの国で力を持つ人たちが、そのまま力をふるうために暗躍していたということだろう。
「乙女がこの国にやってくることが悲願だったではありませんか!!」
「それは他の国との行き来が制限されるからだろう」
仄暗さを含む笑みを浮かべながら国主は言う。
「他国に人を送る魔法が確立されたから、そんな女は本来ならもう不要だ」
国主は蔑む様に私を見る。
それであの初めての日、私を試すような行動をした理由を悟る。
「他の国との交易をするためにも、王はやはり必要でしょう!」
マクスェルがそう言うが、国主はそれを鼻で笑った。
「派兵するんだよ。
我々より弱く愚かな人間どもを導いてやるのだ」
その言葉にようやく、私の生まれた年の預言の内容の意味が分かる。
聖女はその力を持って国を助ける。
聖女が本当に私だというのであれば、救うというのはこのことなのかもしれない。
ぜったにこの人だけは王にしてはならない。
私と国主の間に入って私を守ろうとしてくれているマクスウェルの背中を見る。
目に入ったのは彼の腰に下げられた鞘。
何故剣を持ってきたのかは分からなかった。
けれど、実の親だという人の事をまるで信用していないと言うことだけは私にも分かる。
目の前にいる人の服の裾をそっとつかむ。
出会って間もないのに、私を守ってくれているこの人の事が好きだと思った。