③
少しずつ。
自分の想いを言葉にしていく。
泣いてしまうかと思ったのに、涙は出なかった。喉奥が苦しくはあるけれど。
「背ばっかり高いし、それなのに体は細いばっかりだし。……あのひと、みたいじゃないから」
ライラの吐き出す言葉をリゲルは黙って聞いていた。
促されているように感じて、ライラは言う。不安に思っていたことの、中枢を。
「だからリゲルの求めるものじゃないかもしれない、……って」
それで全部だった。ぎゅっと膝の上で手を握る。
ライラの話が終わったのを知ったのだろう。
リゲルにとっては衝撃だったらしい。数秒、なにも言わなかった。
やっぱりその顔は見られなくて、ライラはただ俯いていた。
「そんなこと、気にしてたのか?」
言われた言葉に、ライラはちょっと怒りを覚えた。悲しみから一瞬脱却して。
「そんなことじゃないよ。ほんとうは、ずっと」
「あ、ああ……悪い。そういうつもりじゃ」
また数秒、沈黙。
そのあと、ごくっと喉を鳴らすのが聞こえた。今度はリゲルのものだ。
そして、言われる。決まり悪げではあったけれど、きっと彼の中にあったことを。
そしてライラが知りたいと思っていたことを。
……聞いて、安心したいなんて、身勝手にも思ってしまっていたことを。
「まぁ、うん。あのひとのことは好きだった。それはほんとうだ。その気持ちを否定したりしない。過去の俺を否定することになるから」
リゲルらしい、誠実でまっすぐな言葉だった。
けれどライラの胸には釘でも刺されたように突き刺さる。ほかのひとに恋をしていた、なんて言われたら当然だろうが。
それはわかられたのだろう。リゲルは即座に続けた。
「でもそれだけで、『ああいうひとしか好きにならない』って決めつけられるのは心外だな。そもそもあれは、なんつーか……コドモの初恋みたいな……そういう……ああ、もう!」
思い切ったようにリゲルは顔を上げた。おまけに「こっち見ろ」と要求される。どくんとライラの心臓が高鳴った。
けれど拒絶することなんてできようもない。どくどくとうるさい、臆病な心臓を抱えながらもリゲルのほうを向く。
一体自分がどんな顔をしているのかわからなかった。不安げな顔だろうけど。涙は出ていないと、思うけれど。
そんなライラの顔をまっすぐに見て、リゲルは言ってくれる。はっきりと。
「俺は好みだけでひとを好きになったりしないし、昔からいちばん傍に居てくれるのはお前だ」
ライラにわかってほしい。
リゲルの瞳はそう言っていた。ライラを照らす、星の色の瞳で。
「それに、好きになるやつは俺が決める」