②
「このノート、なくしたと思ってたんだ。お前のうちに紛れ込んでたんだな」
まったく、なんでなんだか。
なんて、リゲルは、ははっと笑ったけれどライラにはわかった。
無理に笑ったのだと。
そしてそれはライラのためなのだと。ライラがこのノートのために不安定になってしまっているのはわかっただろうから。
でもライラはその笑顔に応えることができなかった。
笑おうと思った。けれど、笑みを浮かべることができない。
そんなライラに、リゲルも偽の笑みを引っ込める。視線を膝に落とした。
ライラはノートを差し出す。リゲルは受け取って、膝に置いた。そして改めて、今度はノートを見つめるために視線を落とす。
「……見たん、だよな」
それがさっき自分で言った、「字を見たらリゲルので」ではないことはわかった。字だけでなく、書いた内容をということだ。
「うん。ごめん……」
それに関しては、ライラは謝るしかなかった。
覗き見だったから。
してはいけないことだったから。
「いや、俺のだと思わなかったんだろう。事故だ」
でもリゲルは優しいから。そんなふうに言ってくれた。
ライラはちょっと迷った。ありがとう、と言おうかと思ったけれど、きっとこれは違う。ちょっとおかしいだろうし。許してもらったのは確かだけど。よってまたなにも言えなくて、二人とも黙ってしまった。
数秒後、切り出したのはリゲルだった。
「悪い。嫌なもん、見せちまったよな」
「ううん。……そう、事故、だよ」
ライラはリゲルの言葉を繰り返す。
でもわかっていた。言うべきなのはこんな言葉ではない。
言わないと。
ごくりともうひとつ、喉を鳴らして。胸の苦しい想いを吐き出す気持ちでライラは言った。
「私、……あのひとみたいだったら良かったのになって、思った」
リゲルは顔を上げてライラの顔を見た。
ライラからはその顔は見られない。ただ、ぽつぽつと言葉を吐き出していく。ずっと抱えていたことを。これを聞いてリゲルがどう思おうと、もう胸に溜めておくことなんてできないから。
「あのひとみたいって、なにが」
端的すぎてリゲルには伝わらなかったのだろう。突っ込んで聞かれる。
「なにって、全部……。リゲルより年上で、大人で、……女のひとらしい見た目だし」
途切れ途切れにではあるが、一気に言った。今度は聞き返されなかった。
「……私はきっと、リゲルの好みじゃないよ」