王の候補2
シェアリに髪の毛の手入れをしてもらいながら「私でも綺麗になれますか?」と聞いてみる。
「乙女は充分にお美しいですわ!」
そう、お世辞を言われるけれど、それがお世辞だということを知っている。
「誰か、こうなりたいという目標の様な方はおられますか?」
シェアリに言われて頭に浮かんだ人物は二人。
一人はお母様だ。
娘が魔法の力が無いと知っても優しかった母のあの眼差し。
もう一人はリゼッタだ。
彼女は聖女ではなかった。自分自身でそれを知っていて、けれど聖女として恥ずかしくないふるまいをしていた。
私を送り出す時の凛としたふるまいは、とても美しいものだと思えた。
見た目も上品で気品があって、皆聖女にふさわしいと思っていた。
凛としている姿は貴族の令嬢としてもお手本そのものに思えた。
本当に彼女が聖女ではないのかと実は今でも疑っている。
そういう風になりたいのと正直に言うと、シェアリは「乙女も素敵ですわ」と答えてくれた。
それから、「王と並び立つ“約束の乙女”として“聖女”として相応しい見た目になるためのお手伝いをしますわ」と言って微笑んだ。
所作や教養についてはメアリが詳しいので教師になってくれるだろうということだった。
「ありがとう」
花のいい香りのするオイルをじっくりと塗り込められながら私が言うと、シェアリはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。
丁寧に体の手入れをされた後、ホットミルクを出される。
寝間着に着替えている。
ネル素材の服は着心地がいい。
「資料のご準備が出来ましたのでお渡ししておきますね」
メアリに言われて驚く。
「もう、準備ができたの!?」
もしかしなくても、メアリはとても優秀な人なのかもしれない。
シェアリに手入れされている髪の毛は数日でもうキラキラと輝く様になっている。
二人とも多分私にはもったいない位優秀な人だ。
資料には恐らく魔法で記された顔の絵姿以外に様々な能力、交流のある貴族や来歴が書かれている。
最初は謁見で話を聞いた国主様で次が白き竜だった。
名前は書かれていない。
口に出す言葉以外にも名前を使わない風習なのかもしれない。
ペラペラとめくっていく。
人数にしておおよそ十人ほど。
一番最後に書かれている人物に少しだけ驚く。
マクスウェルについて書かれている。
「彼は始祖の力をかなり強く受け継いでおりますので。
ですが、あくまでも大人になれればという前提での候補として我が国では扱われております」
淡々とメアリが言う。
「竜は大人になると何が変わるのですか?」
マクスウェルがあからさまに子供扱いされていることは痛いほどわかっている。
けれど何故ここまであからさまなのかが分からなかった。
先王の崩御などで子供が王となった歴史はいくらでもある。
私の国には家督を継ぐために成人前に婚姻を結ぶ人間さえ貴族ではそれほど珍しくはない。
なぜそこまで子供だ子供だというのだろうか。