王の候補
メアリはあの人に伴侶がいるということを私が知っていることに少しだけ驚いている様だった。
「あの方の伴侶は社交の場に全く姿をあらわしませんわ。よくご存じでしたね」
そう言われる。けれど自慢の人なのだろうとあの無機質でそれでいて甘やかな声を思い出す。
「竜の大切は、人の大切と違うものなのですか?」
「人の大切が私には完全に理解できませんが、特別に大切なものですよ」
そう言ってメアリが笑う。
けれどそれは特別を超えているようにも思えた。
「現在この国で王の候補とされている方の資料を見せていただく事は出来ますか?」
私が聞くとメアリは「勿論です」と答えた。
「でもそれよりもまずはお食事と湯あみをなさいませ」
シェアリが乙女の疲れを癒したいと湯をはって待っております。そう言われてはじめてお腹がへっていることに気が付く。
「まずは軽くお食事を。その後ゆったりとお過ごしいただいてから資料のご準備をいたします」
そうメアリが言った。
私が誰か一人を選ばねばならない不安は目を覚ましてからじわじわと押し寄せてきている。
正直に言って怖い。
投げ出してしまいたかった。
けれど逃げ出そうという気持ちは無かった。
精霊と契約できなかった時の様な惨めな気持ちじゃないからだろうか。
できることはやってみようと思った。
あの、私が聖女だと思っている人みたいに私もなれるだろうか。