②
「綺麗だろう。結構苦労したんだぜ」
薔薇は育てるのが難しいと、リゲルがまだ見習いの頃に聞いたことがある。誇らしげに言ったリゲル。目の前のこのうつくしい薔薇はつまり、リゲルの成長を表しているのだから。
「今度は公園や庭じゃなくて、野に行ってもいいかもしれないな。自然のままだって綺麗だから」
樹々の間を歩きながら、そんな話をした。
「うん、そうだな。手入れをされていない植物は、違う魅力があるから。好きなように成長して、生き生きしてる」
植物の話をしているときのリゲルは、声が弾む。それこそ自分で言った野の植物のように、生き生きとした声。
「私、リゲルがお花や樹の話をしてるの好きだなぁ」
その言葉は自然に出てきていた。
「なにを藪から棒に」
リゲルは、きょとんとした。確かに唐突だったろう。植物の話はしていたけれど。
「だって、リゲルのいちばん得意で好きなことでしょう。仕事としても、趣味としても大切にしているのが伝わるから」
ライラの言葉に、リゲルはちょっと頬を赤くした。
「なんか、語っちまったな」
照れたときにするように、髪をくしゃっとする。
「どうして? もっと聞かせて。私、聞いてるのが好きだから」
ちょっとためらったけれど、ライラは手を伸ばした。そっとリゲルの腕に触れる。厚手になってきた服の上からでも、しっかりと筋肉がついているのが伝わってきた。
自分から触れることにどきどきとはしたけれど、もう幾度か抱きしめられて、キスもしている。触れることだって、前よりは、……前よりは、だけど。緊張も薄らいだ。
「そ、そうか?」
もう一度髪をくしゃくしゃとして、でもリゲルは微笑んだ。話すのも好きなのだ。おしゃべりなライラに負けないくらいに。
「じゃ、そこの赤い薔薇がつぼみだった頃の話でもしていいか」
「うん」
「あれな、あそこに植えるのな、ほんとうは白い薔薇にする予定だったんだ……」
その話を聞きながら、自然に笑みが浮かんできてしまう。そして自分のことも考えて、やっぱりリゲルを眩しく感じるのだった。
ずっと思っていたことだ。
いつか、いつか大人になるときはリゲルのように、『これ』という芯を持っていたい。それがなにになるかはまだわからないけれど……。