③
そのような数日前のデートのときのことを思い出しながら、そしてそこから再びそのことを思いながら、星を置く。一年間、箱の中で眠っていた星は少しくすんでいたので、靴磨きかなにかを使って磨こうと思った。そうすればまたきらきらと光ってくれるだろうから。
そしてほかにはないかと箱のひとつを開けたとき。
ごほっとライラは思わず、思いっきり咳き込んでしまった。そこには、ほこりがたくさん入ってしまっていたゆえに。ずいぶん長いこと開けていなかったようだ。
こほこほ、と乾いた咳が治まってから、改めて中を見る。
入っていたのは古い本のようなものだった。家にある本は、大概父親のものだ。なのでライラは当たり前のように、父のものだろうと連想した。
そしてそれは当たっていたようだ。
教科書のようなもの。
資料集のようなもの。
いくつか手に取ってみたけれど、そのような本たちだった。
面白いものはあるかしら。それか勉強に役立つような……。
ちょっと興味を覚えて、ライラは何冊か手に取ってみた。ほこりが舞わないように気をつけながら、クリスマスの飾りを拭くために持ってきていた古い布で、表紙を拭っては幾枚かページをめくる。
これは外国語。これは数学。色々な科目の本が入っていた。
しかし、その中にちょっと違うものが入っているのをライラは目にした。
なにかしら、これ。
それは小さなノートだった。表は革張りで、薄い。ほこりをかぶってしまっていたけれど、革張りのためかそれほど傷んだ様子はなかった。
お父様が昔使っていた仕事のノートかもしれないわ。
ライラはまずそう思った。しまってあるならもう不要、それほど大切なものではないだろうし、父親の仕事ぶりを見られるかもしれない。
将来のこと。父親の仕事もなにかの参考になるかもしれない。
ライラはそのように軽く思い、そしてその気持ちのままに茶色い革のノートを開いてしまった。あとから思えば、それがすべての間違い。
書いてあったのは、確かに男性の字だった。しかし父親の筆跡ではないことにすぐ気が付いてしまう。そしてその筆跡が誰のものであるのかということも。
今よりずっと拙いけれどそれは。
……リゲルのものだ。