郷里2
部屋の中は聖堂に近い。
豪華なホール状の内装は讃美歌がよく響きそうだし、私の国のそれとよく似ている。
一つだけ違う点は床一面に魔方陣が描かれていること。
その魔法陣はあの時、私が何も召喚出来なかったそれとよく似ているように思える。
思わず悲鳴を上げてしまう。
苦い記憶が脳裏に広がる。
今までは全く緊張していなかった。
怖くも無かった。失敗したらどうしようとも思っていなかった。
ただ精一杯自分の力を使えればとだけ思っていたけれど、今はただただ恐ろしい。
あの時と同じように失敗を繰り返してしまったらどうしよう。
カタカタと震える私に、マクスウェルは「どうしましたか?」と不思議そうに聞いていた。
「……前に、似た魔方陣が」
それ以上は声が出なかった。
この場所には二人きりだ。そういうしきたりらしい。
マクスウェルは苛立つことも無く、そっと私の背中に手を置いて落ち着く様に撫でてくれた。
まるで子供にするみたいなしぐさだ。
けれどそれが逆に良かったのかもしれない。
少しずつ落ち着いてくる。
「私はこれに似た魔方陣での儀式に故郷で失敗しているんです」
自分が出来なかったこと、無能であることの告白をするのは辛い。
けれど言わなければならない。
私では駄目かもしれないということを。
「無理するな」
マクスウェルが乱暴な口調で返した。
「別にそこの魔方陣は発動できなくても儀式には関係ないし、それが駄目でも乙女には乙女の魔法がある」
俺は子供だから思うのかもしれないけど、と前置きをした上でマクスウェルが「王が決まらないならそれはそれで仕方がないんだよ」と言った。
王がいない国として今までもやってきたのだからそのまま生きていくでも構わないはずなんだからと言ってマクスウェルは笑った。
それで少しだけ肩の力が抜けた。
あと、心の中で泣き叫ぶ自分の声が少しだけ小さくなった気がした。
「私は今日ここで何をすればいいんですか?」
私が聞くとマクスウェルは「この魔方陣の中心にある水盆に魔法をかけて欲しい」と答えた。
魔法陣ばかりに目が言ってしまって気が付かなかったけれど、水盆というか庭園の噴水の一部の様な丁寧な彫刻が施された台座付の水桶の様なものが目の前にはあった。
「どんな魔法をかければいいんですか?」
王を選んでください。なのだろうか。
そんな魔法をかければ勝手に選んでくれるものなのだろうか。
「ご神託を授けよ」
静かに簡潔にマクスウェルは言った。
それは私たちの国が預言を毎年受け取るのに似ていると思った。