郷里3
預言により王を選ぶということだろうか。
神様が道をさししめしてくれるのであれば嬉しい。
魔道具だというその水桶の前に行って手をかざして祈る。
ふわりと魔方陣が色づく。
ほのかに淡く光る魔方陣は多分私の魔法に反応している。
あの時の様に失敗しないかもしれないと思った。
失敗しないで欲しいと思った。
「綺麗だ……」
後方からマクスウェルの感嘆の声が聞こえる。
その声で勇気づけられる気がした。
水が揺れる。
同心円上に真ん中から外側にむかって規則的に波紋がおきる。
まるで水魔法を使っている時みたいだと思う。
水面がまばゆく輝く。そして水が弾ける様に上にむかってしぶきを上げた。
魔法を失敗したと思ったのは一瞬だけだった。
そこには見上げたその先に知っている風景が映し出されていたので魔法が何らかの効果があったのは確かだった。
そこには両親がいた。
思わず涙が滲みそうになる。
こちらの声は伝わるのだろうか。
「本当だわ! すごい、ねえあなた!!」
母の興奮したような声が聞こえて目頭が熱くなる。
たった数日離れただけなのに、その声が私を心配していて下さると分かっただけで泣きそうになってしまった。
「お母さま……」
声をかけると、その声はあちらにも伝わっている様で「サラ、サラ……」と名前を呼ばれた。
「おかげ様で無事、地の国にまいりまして暮らしております」
私が頭を下げると「息災でなによりだ」と父が言った。
「私が何のためにこの国に遣わされたのかお父様はご存じですか?」
聞きたい事、言いたいことは沢山あった。
魔法が使える様になったこと、竜の国に来たこと、沢山沢山。
たった数日だけれど話したいことが沢山ある。
けれど、この魔法を使ったのは初めてでどのくらいの時間話せるのかさえ分からない。
「それについては神官殿と、聖女様よりお話があるそうだ」
父は急に貴族としての顔に戻る。そしてそう言った。
魔法で浮かび上がる姿が両親から、神官様とリゼッタ嬢に変わった。
これから何をせねばならぬのか。少しだけ恐ろしいと思った。
後ろをちらりと振り向くとマクスウェルがいた。
もう魔方陣は光っていない。
マクスウェルと目が合った。
彼は無言で私のところまで来てくれた。
ああ、命を助けてくれた人だと両親に紹介すればよかったとようやく気が付く。
「まず、サラ様はお気づきかと思いますが、私は聖女ではありません」
リゼッタの最初の言葉に驚いてしまう。
一体彼女は何を言っているのだろう。
だって、彼女は王宮で聖女としての教育を受けていると噂されていた。