①
お茶を飲むと言った割には、ロイヒテン様がサシャを連れて行ったのは、城のバルコニーだった。ガラス張りの窓は閉ざされているので寒いということはない。けれどそこから見える景色は寒々しかった。
「悪かったね。驚かせて」
「ほんとうですわ。わたくし、心臓が止まるかと思いまし……」
言いかけたところでロイヒテン様がストップをかけてきた。
「普通に喋っていいよ。人払いをしたんだ。しばらく誰も来ない。今は『サシャ』と話したくて」
『サーシャ=アシェンプテル』ではなく、『サシャ』。
そして彼も『ロイヒテン様』ではなく『シャイ』になる。
「……それなら。もう、ほんとうに驚いたのよ。いらっしゃるならいらっしゃるって言ってほしかったわ」
要求通り、素の喋り方をしたというのに、シャイには笑われる。
「くくっ……いきなりサシャになったな」
「シャイがそうしろと言ったのよ」
「そうだけども」
数秒笑ったあとに、シャイは真面目な顔になる。
「キアラのお茶会も気になったんだけども。サシャに話しておきたいことがあってさ」
「……お城でなければ駄目なの?」
お城、というか、この国というか。サシャが住み、シャイがカフェで働くあの国ではだめなのか。そのほうがいくらでも都合がつけられるというのに。
サシャの疑問は当然のものだったろうが、シャイは言った。
「まぁ、駄目じゃないけど……。ここで話すのがふさわしいかと思ったんだ。そしたらキアラがサシャを呼び出したなんて言うもんだから、便乗させてもらったってわけさ」
だから追っかけてきて、王子のカッコ、したんだ。
そのような前置きのあとにシャイはサシャにソファを勧めてくれた。短い話でないのはわかったのでサシャは大人しくソファに座る。隣にシャイも座ってきた。
「話ってのは。クリスマスパーティーのときに女性が挨拶にきたろう。ほら、金髪をアップにして、サシャにつっかかってきた……」
「……ああ。エリザベータ様、だったかしら」
そう、とシャイは端的に肯定した。
「その節は悪かったね。俺の事情で巻き込んで」
「いえ。それより、どうしてなの?」
シャイはここまでよりもっと真剣な顔になった。
「そう、その話をサシャにしておくべきだと思ってたんだ。でも機会がなかなかなくて。気軽に話せることじゃないし」
釣られてサシャもごくりと喉を鳴らしてしまう。シャイの、そして多分王家のなにかしらに関わると察したので。
「彼女はね、以前、俺の婚約者だったんだ」