⑥
「え、あの、キアラ、様。なにを」
「ああ、そうだな。いつかそうなるだろう」
しどろもどろでなんとか言ったのに、ロイヒテン様ときたら、しれっとそんなことを言うのでサシャは心臓が高鳴るがあまり失神しそうになった。
「え、ええと、そのようなことは、まだ」
それでもキアラ姫は許してくれない。
「あら、だってお兄様に抱かれてくちづけされていたじゃない。クリスマスパーティー。私、拝見したのよ」
くらり。
サシャの意識が揺れた。
まさか見られたなんて。
あの一瞬。ほんとうに、まさか、だ。
「あれは、ご婚約者様だからされたのではなくて?」
少女とはいえども立派な女性。見る目は確かなようだ。今度はロイヒテン様に尋ねている。
きゃぁ。
くちづけですって。
耳にした少女たちが一斉におしゃべりをはじめる。頬を紅潮させて楽しそうに。こういう話になれば盛り上がってしまうのは、年頃の少女として当然。
しかし今のサシャにそれを気にする余裕などなかった。なにも言えずにいるサシャをよそに、ロイヒテン様とキアラ姫は楽しそうに話を続けている。
「勿論だよ。俺はそんな軽い気持ちでサーシャに接したりしないからな」
「まぁ、お兄様ったら自信満々でいらっしゃる」
兄妹はくすくすと笑い合った。サシャは混乱のしきりだったが、ロイヒテン様に手を差し出されてしまった。
「さ、サーシャ。俺たちはあちらでお茶でも飲もうじゃないか」
「そうね。サーシャ様、あ、いえ。お義姉(ねえ)様。今日はほんとうにありがとう。とても楽しかったわ」
あれやこれやと。
落ち着かないままにサシャはロイヒテン様に手を引かれて、少女たちの集う部屋をおいとますることになったのだった。