②
「サーシャ様!」
馬車が止まり、おつきの彼の手を借りて降りて、前回と同じく衛兵にご挨拶をして中へと入ろうとしたのだが。
開いた玄関の奥。たたっと誰かが駆けてきた。
サシャは度肝を抜かれてしまう。キアラ姫ではないか。お姫様みずからお出迎えなど。
「待ち望んでおられたのですよ」
うしろからメイド……以前、サシャが泊まったときにお手伝いをしてくれた娘(こ)だ。彼女がうしろからやってきて、彼女も嬉しそうに言った。
「いらっしゃい! 歓迎するわ」
キアラ姫は目を輝かせてサシャの前に立ち、あまつさえ、きゅっと手を握ってくれた。これも防寒のひとつとして手袋をしていたことを後悔してしまうほどに、嬉しい。
「あ、ありがとうございます。勿体ないことですわ」
「いいえ、私、またお会いしたいと思っていたのよ。我儘を言ってごめんなさい」
「そのようなこと、ございません。身に余る光栄です」
やりとりをしているうちに「玄関先は寒いですから」と中へ入るようにメイドに促されてしまった。そこでお城内部へお邪魔して、前回と同じ客室に荷物を置いてから、キアラ姫にお茶をと招かれる。
城の中はじゅうぶんなほどに暖房が効いている。暖炉の火の回りが良いのか、熱を逃がさないような構造なのか。どちらもあるのかもしれない。
実際、キアラ姫などは特に厚着にも見えないワンピースを一枚でさらりと着ているようだ。基本的に、外に出ないお姫様そのとおりの服装であった。
「うふふ、街中の流行歌なんて俗なものって父上はおっしゃるのだけど。特別なお茶会なのだと母上が黙っていてくださるとお約束してくださったの。だからとても楽しみよ」
あれからもう一度手紙を交わして歌う曲を決めていたので、キアラ姫は心底嬉しそうに笑う。確かに王族の方にはあまりふさわしくない歌であろう。そのためもあり、サシャが選ばれたというのもあるのかもしれなかった。
「サーシャ様、明日はよろしくね」
「ええ、わたくしこそ。精一杯歌わせていただきます」
明日のことだけでなく、そのあとはキアラ姫に質問責めにされた。
サーシャ様は普段どのようなおうたを歌われているの。
学校とはどのようなところなの。私は家庭教師からしかお勉強を習ったことがないの。
お友達はどんなお方なの。
身分が露見しないように、しかしまるで嘘にもならないように慎重にサシャは答えていった。
キアラ姫はとても楽しんでくれたらしい。メイドが「そろそろお夕食ですから」と呼びに来るまでおはなしは続いた。
楽しくはあったが気を抜けないお話だったのでサシャは気疲れしてしまい、お客として出されたお夕食をいただいたあとには客間のベッドでぐっすりと眠ってしまった。