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 まさかもう一度海を渡ることになろうとは思わなかった、とサシャは思ったものだ。
 厳密には前回の『行き』『帰り』、そこからの『今回の行き』で三度目なので、往復を一度とカウントすれば二回目というわけだ。そんな回数はともかく、船にも随分慣れた。
 二月の半ば。まだまだ冷えるのでサシャはコートの上に毛皮のストールを羽織っていた。
 こんな、庶民の身には高級品も極まる毛皮製品などサシャは身に着けたことなどなかったのだが、シャイに贈られたのだ。「海の上は一番寒い時期だよ。風邪を引いたら困る」などと。
 真っ白いそれは、うさぎの毛なのだという。少し可哀想な気もしたのだが、普段から肉や魚を食べて生きている以上、そのようなことはいえない。暖を得るために必要なことだ。感謝して優しく扱うのが一番の恩返し。
 高級で上質なだけあって、毛皮のストールは、普段使っているマフラーなどとは比べ物にならないあたたかさだった。確かにとても助かる、と思う。冷えがちな首元がとても暖かい。
 今回はコートまで新調してもらってしまっていた。『貴族の娘』が同じ服を着てお客に行くのはおかしいことだそうだ。
 そういうものなのね、くらいにサシャは思って、ありがたくもらっておいた。
 今回のコートは真冬であることもあり、ひざ下まであるロング丈だった。色は茶色。レースが控えめについている。中はあかるいピンク色のワンピースだが、脱がなければ見えないほど、しっかり身を覆ってくれる作り。
 このように防寒も万全に整え、やってきた二度目のミルヒシュトラーセ王国。船を降りて、前回と同じように馬車に乗せていただいて走る。天気は生憎曇りだった。
 雨でも降るのかしら。
 サシャが空に視線をやったのに気付いたらしいおつきの男性が「雪になるかもしれませんね」と言った。
 雪。
 サシャの暮らす国では雪が滅多に降らない。今年はまだ、二度ほどちらちらと舞ったくらいである。
 しかし聞いた話によると、ミルヒシュトラーセ王国はもう少し雪の多い国だそうだ。積もることもあるのだとか。だからこそ防寒防寒と、口を酸っぱくして言われたわけだが。
「雪のヴァレンタインになれば、キアラ様やお客様は喜ばれるかもしれませんね」
 おつきの男性も少しはサシャに慣れてきてくれたようで、そのような話もしてくれる。
 確かに雪の舞うヴァレンタインなどとてもロマンティックである。雪をしっかり見たことはほとんどないし、降るところを見られたらいいなぁ、などサシャは思ってしまった。
 もっとも、降りすぎれば交通機関などに影響が出るという話くらいは聞いていたので、帰れなくなってしまうと困るのだが。

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