タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリア。
ここも乗り捨てられた車などがたくさんあり、閑散としていた。
しかし、そこにある、ショッピングモールの駐車場には大勢の人々が避難をしていた。
タロットキャロットのメンツは、駐車場で車中泊をし、そこを根城にしているのだそうだ。
その年齢層は、未成年から中年までと幅広く、ほとんどが高層マンションの住人だ。
訳を聞くと、エレベーターの止まった高層マンションを登りたくなく、仕方なく車中泊をしているのだという。
うちは十四階だったけど、毎日三十階、四十階の階段を登るなんて、俺だって家を出るかもしれない。
このショッピングモール、ららぽーと豊洲にはそういった人達が、大勢避難をしており、というか半ば強引に占拠しているのだ。
駅前の交番がなくなっていたように、武力を持つ警察もおそらく異世界転移をしている。
つまり、公的権力が無くなり、違法行為を取り締まることが出来なくなり、そうなったのだろう。
「世界は変わってしまったんだな……」
「なに黄昏れてんだよ、ヒーロー」
屋上の駐車場で、春を感じる風を楽しんでいると、横にいる裕太が俺を茶化してきた。
こいつも家族三人で車中泊をしているらしい。
「つうかさ、あの魔法なんだ? 俺らのとかなり威力が違ってたけどレベルアップしてんの?」
「レベルアップ?」
「……マジで言ってんの?」
「……あ、ああ、たぶんレベルアップのせいだよ」
俺はレベルが見れていないので、いくつなのかさっぱり分からない。
「だよなぁ。現実世界でのレベルアップなんて、夢のようだ。俺も夏哉に負けないように頑張らなきゃな!」
裕太は鼻息を荒くしながら、空になった缶コーヒーを握り潰し、タロットキャロットのメンツがいる方へ歩いて行った。
【あーちゃん?】
【……】
まただんまりか。
いくら柔道部でも、スチール缶を細く握り潰すのは不可能だ。
おそらく父さんが言ってたゲームアプリで、
まあ、人工知能が黙ってしまったら、手も足も出ないと言うことはよく解った。
一応俺の安全を優先しているみたいだし、何かあるのかもしれない。
そうこうしていると「食事の準備が出来た」と、井上さんが俺を呼びに来た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
打ち上げと言っても、この非常時なので、そんなに豪勢なものでは無く、タロットキャロットのメンツが下の階で買ってきた食材で鍋をするのだ。
三月で吹きさらしの屋上は寒いし、昼間の鍋というチョイスは大歓迎だ。
それぞれコンクリートの地べたに腰を下ろし、バッテリー式のIHコンロを囲んでいる。
しばらくすると、色々な食材が入っている鍋はすぐに食べ頃となった。
「今日の勝利を祝して、それとヒーローに乾杯!!」
タロットキャロットのリーダー、裕太が立ちあがって音頭を取ると、数十名のメンツが一斉にグラスを合わせた。
もちろん未成年はノンアルコールの飲み物だ。
「……」
全員が俺の方を見ているのは、裕太のせい。
アシッドスライムを倒してから、ずっと俺のことをヒーローと呼んでくるからだ。
「今回はお疲れ様でした」
ジュースの入ったグラスを持ち、裕太に続いて音頭を取ると、ようやくみなで鍋を突っつきはじめた。
ただ、大声で騒ぐことはせず、黙々と食べたり飲んだりしている。
たぶんモンスターを警戒しての事だろう。
彼らはプロトタイプARC装着者の集団でもあるので、人工知能が表示する情報で現状を理解しているということだ。
盛り上がりが微妙な打ち上げは粛々と進み、俺は手すりから|晴海《はるみ》運河を眺めていた。
「はじめまして、鈴木さん」
と、後ろからの声で振り向くと、そこには四十代くらいで、筋肉質な男性が立っていた。
「えっと、はじめまして」
「ああ、すみません。僕は
「鈴木夏哉です。よろしくお願いします」
丁寧に話しているが、
「ああ、すみません」
少し眉を寄せると、佐野はすかさずそれを察知して謝ってきた。
「いえ、いいんです」
「……あの、つかぬ事を伺いますが、鈴木さんはこの辺りにあるマンションの住人じゃ無いですよね?」
「はい」
「え~っと……どちらから来られました?」
「六本木の方からですが、どうしました?」
「六本木のどちらです?」
「……俺はビッグフットジャパンに避難してます」
ずいぶんツッコんで質問してくるな、と思っていると、佐野は後ずさりをし「おいっ!! こいつビッグフットの手先だぞ!!」と大声を出した。